I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
ぶっちぎりでゴールをかまして、疾走後の解放感と激しく脈打つ鼓動を感じながら真っ先に椿木さんの方を振り向く。
そうすれば、こちらにふわりと笑ってみせた椿木さんが、その場に崩れ落ちるように倒れていくのが目に入った。
「……は?」
一瞬の出来事にひどく驚愕するも、考えるより先にまず身体が動いていたというやつで、俺は全力疾走後の気だるさなんて気にも止めずに、ひたすらに倒れ込んでいる椿木さんの元へと向かって足を動かしていた。
「…凛子?!…」
現場に辿り着けば、突然隣に倒れ込んだ椿木さんを涙目で揺らす森田さんと、何事かと騒ぎ出した外野の連中が目に入った。
「森田さん、ちょっとそこ代わってもらえる?」
「…三ツ谷君!凛子が…凛子が…ごめん、私見ててって言われてたのに…こんな…」
俺がそう声をかければ、ボロボロと泣き出してしまった森田さん。
「ハハッ、森田さん、一旦落ち着けって、な?きっと大丈夫だから。」
俺は椿木さんが息をしていることを一先ず確認して安堵の息を漏らすと、森田さんを落ち着かせるように頭を撫でた。
そして、椿木さんを姫抱きにするとテントの下で待機しているだろう保健の先生のところへと足を進めた。
「…んー…多分軽い脱水と貧血ね。少し横になって休んでたら落ち着くと思うから、三ツ谷君、保健室のベッドに運んであげてくれる?私もすぐ行くわ。」
軽い脱水と貧血。
病院に行く程じゃないという言葉に俺と森田さんは心底胸を撫でおろす。
俺は「ごめんね」と俺に抱かれた椿木さんに何度もしゃくりながら謝る森田さんに別れを告げると、言われた通り、椿木さんを保健室のベッドに寝かせにいった。
髪を結んだままじゃ寝苦しいだろうと、後ろできつく束ねていたリボンと髪紐を解いてやれば、「…ん、タカちゃん?」と気が付いたのか椿木さんが薄く目を開く。
「…あれ?保健室?」
俺は、そう言って起き上がろうする椿木さんを制止する。
「…ったく、心配かけやがって。俺が走り切ったところで椿木さん倒れたんだよ。マジで心臓止まるかと思ったわ。」
そう言って、デコピンを一つお見舞いしてやれば、「ごめん」とバツの悪そうな顔がこちらを覗いていた。