I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
グラウンドに向かうべく廊下を歩いていれば、少し前方に、椿木さんとクラスメイトの森田さんがトイレから出てくるのが見えた。
「お、ポニーテール。」
頭の高い位置で一つに括られた髪の毛がぴょんぴょんと可愛らしく揺れている様子を眺めていれば、不意に森田さんの口から俺の名前が零れたのが聞こえる。
そうすれば、瞬間湯沸かし器の如く、顔を真っ赤にして両手をぶんぶんと降り出す椿木さん。
「…俺がどうかした?」
不思議に思って声をかければ、俺の登場が予想外だったのか大きな瞳を見開いた椿木さんの顔が、こちらを勢いよく振り向いた。
「へ?!タカちゃん?!」
一方、隣の森田さんはニヤニヤと楽しそうにこちらを振り向くと、
「おー噂をすれば、三ツ谷くん!午後の女子のダンス、凛子のソロパートすっごい可愛いから期待しててよ♡」
なんて言って脇腹を小突いてきた。
「お?まじ?」
椿木さんが夏休みの間、ダンスの選曲や振り付けを楽しそうに考えていたことは勿論知っていた。
しかし、ソロパートがあるなんてのは初耳で、俺は思わず期待に胸を膨らませる。
そんなんめっちゃ可愛いに決まってんじゃん。なんて。
「むっふっふ♡凛子の可愛さが引き立つようにウチらで一緒に考えたんだもん。ほんとだよ。男子諸君は鼻血注意報であります!とくと目に焼き付けたまへよ♡」
「…ちょっと優美ちゃん!大袈裟!」
「…へえ、めっちゃ楽しみだわ。」
何故かドヤ顔で腕を組む森田さんと、恥ずかしそうに眉を下げる椿木さん。
俺らは3人並んで熱い日差しが照りつけているグラウンドへと足を運ぶ。
俺は2人の他愛もない話に時折笑いながら、
ふと、夏休みに入ったばかりの、とある昼下がりのことを思い返していた。