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I don’t want to miss a thing.

第1章 …I'll be there for you.



勝ち誇ったようにニカッと笑うタカちゃんと
それを悔しそうに見上げる私。

なんだか色んな意味でタカちゃんに負けたような気分だ、なんて一人ぼんやり考えていれば、

「はい、2回戦目。」

と、タカちゃんが新しい線香花火を差し出してきた。

でもこの笑顔は憎めないんだよなぁ、なんかズルいなぁ、なんて内心思いながら、「よし、リベンジ!」と炎を花火の先端に点ける。

少しずつ少しずつ小さく震えながら大きくなっていく線香花火の炎を、2人静かに眺める。

なんだか線香花火って私のタカちゃんへの想いが膨らんでいく様子に似てるな、なんて。

半ば詩人的な考えが脳裏に浮かんできて、私は苦笑した。

「………そう言えばさ、『君と夏の終わり 将来の夢 大きな希望 忘れない』って歌あるじゃん。あれさ、毎年この時期になると聞いちゃうんだけど、2人は付き合ってたと思う?友達以上恋人未満だったと思う?」

私が突然そんなこと言い出せば、「なんだよ、突然」とタカちゃんは笑った。

「…花火から気を逸らす作戦。ちなみに、私は『両想いだったのに、2人とも気持ちを伝えられなかったセツナイ夏』に一票。」

私がそう言えば、タカちゃんは「普段そんなこと考えながら歌聴いたことねぇよ」と言ってクスクスと笑った。

そうすればポトリと落ちた大きな火玉。

「……ハハッ、まんまと椿木さんの作戦に引っかかっちまった。」

「へへっ、私もやる時はやる女なの。」

そう言って軽口を叩いて、お互いしばらく笑い合っていれば、タカちゃんがふと口を開いた。

「…椿木さんの将来の夢って何?ピアニストとか?」

3回戦目の線香花火の炎を点火しながら、「…うーん、そうだなぁ」と少し頭を捻る。

「………まだコレって決めてるものがあるわけじゃないけど、音楽にはずっと関わってたいかなぁ。…私がこれまで音楽に救われてきたことが多いから、同じように悲しんで苦しんで寂しくてどうしようもないって感じてる人達がいれば、そういう人を少しでも勇気づけられる音を届けたいし、寄り添える曲を作っていきたいなって思ってる。」

私がそうゆっくり話すのを、何も言わずに静かに聞き届けると、タカちゃんは、

「…へえ。…何かそーゆーのロマンがあっていいな。」

と言ってふわりと優しい笑みを浮かべた。
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