I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
「…あんまり綺麗じゃないけど、どうぞ!」
俺は案内されるがまま、椿木さんの自宅に足を踏み入れる。
椿木さんは謙遜してるけど、普通に綺麗に整頓された家は、自宅と比べると断然新しいし綺麗で少し羨ましいな、なんて思った。
「飲み物、何がいい?紅茶、コーヒー、麦茶、あ、ココアもあるよ。ジュースだと、コーラとオレンジジュース!」
居間に横付けされているキッチンの棚をあさりながら、椿木さんがこちらに声をかける。
「はは、すげー種類豊富。じゃあ麦茶もらっていい?」
「りょーかいー!」
こぽこぽと麦茶を注ぐ音を聞きながら、居間に飾られた写真たちを眺める。
女の子が3人でケーキを食べていたり、おもちゃを取り合って一人が泣きじゃくっていたり、その3人に両親が加わった家族写真など、家族仲の良さが伺えた。
その中には、ドレスを着てピアノの前に立っている椿木さんの写真もあって、思わず見惚れる。
「…へー、こういうデザインも似合うんだな。」
「ちょっとちょっと、恥ずかしいからそんなに見ないでよ、三ツ谷くん!」
黒でシックな自分好みのデザインのドレスで身を包んだ椿木さんの写真を暫く眺めていれば、椿木さんが俺の目の前で手をぶんぶんとふった。
「あ、悪ぃ、つい。」
そう言って笑えば、照れたような椿木さんは「お茶ついだから。」と言って、背中をグイグイと押しながらテーブルに誘導した。
俺が机に座ったことを確認すると、再度キッチンに姿を消す椿木さん。
注がれた麦茶を一気に飲み干すと、キッチンからカチャカチャと食器をいじる音がした。
「飯作んの?手伝おうか?」
「ううん、この間ハンバーグの作り置きしておいたのまだ残ってたから今日はこれで食べちゃおーと思って。三ツ谷くんも少し食べる?」
気になって俺もキッチンに顔を出せば、椿木さんがタッパーからハンバーグを皿によそっているところだった。
「え、いいの?」
「勿論!ご飯は誰かと一緒に食べたほうが美味しいし!」
こちらを見て、ニコッと笑う椿木さんに、「じゃあ遠慮なく」と伝える。