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火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】

第1章 本家と分家




「さあ、もう寝る時間よ。
 今日はありがとう」

「ふみのねえさまも、
 いっしょにあそんでくれて
 ありがとうございます。
 おやすみなさい」

「うん、また明日ね。
 お休みなさい」

とてとてと、部屋から出ていく姿を見送り、
健一郎は襖を閉めかけて、その動きを止めた。

「あの、ふみのねえさま」

「ん?なあに?」

ぽつりと、健一郎は言った。

「また、うみのおはなし、ききたいです。
 ふみのねえさまの、
 うみのおはなし、だいすきです」

「分かったわ。
 明日、海の図鑑を一緒に見ましょうね。
 さ、もうおやすみなさい」

健一郎は、嬉しそうに笑うと静かに襖を閉めた。



(今日は色々なことがあったなあ。
 結局あの男の子の名前は思い出せない…)

ふと少年のことを思い出してしまったが、
ぶんぶんと頭を振り、寝る支度をした。

寝巻きに着替えて、灯りを消そうとした時、
壁にかけてある海の絵を見た。

目を閉じると、波の音が聴こえてくる。
灼熱の太陽、潮風の匂い、鴎の声。
まるで、そこにいるかのような錯覚に陥る。

ふみのは海が大好きなのだ。

よしのと健一郎が生まれる前、
夏になると、健蔵とみちに連れられて、
海の近くにある別荘によく遊びに行った。

別荘から歩いてすぐに行ける海岸は、
長く広い砂浜が広がり、黄金の絨毯のようだった。

その先には青い宝石を集めたかのような
きらきら光る海の広大さにうっとりする。

夏の暑い日差しが肌に照りつけるのに、
潮風は優しく頬を撫でていき、
汗がすうっと乾いていく瞬間が心地よい。

青く光る波打ち際に近づくと
みちに危ないと注意されたが、
ふみのはこの冷たい海水が
足元を冷やしていく瞬間が堪らない。

ああ、このまま海に溶けて、自由に海を泳げたら。
いつか自由に潜れる何かを発明してみようかしら。

海に来るたび、何度も思った。
海は自分の新しい可能性を引き出してくれる。



目を開けると、
さっきまでの暗い気持ちはどこかにいってしまった。

海の絵に微笑み、灯りを消してふみのは布団に入る。

明日は久しぶりに海の本を読もう。
健一郎と一緒に図鑑を見るのも楽しみだ。

ふみのは、
気付かぬうちに眠りに落ちていた。

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