火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第32章 《番外編》浅縹のひかりに願いを
『夏風邪は拗らせると良くない。
何か食べたいものはあるか?
遠慮はしなくていい。
…ふみのさんが心配なんだ。
どうか頼って欲しい』
「…っ!」
杏寿郎のやさしい声色に
ふみのは涙が込み上げてきそうだった。
「杏寿郎さん…、
心配してくださって、ありがとうございます。
…そうしたら…、ゼリーが、食べたいです…」
『うむ、分かった。
他にも食べたいものが思い浮かんだら
連絡してくれ。
届け物は、玄関のドアノブに掛けておく』
「本当に、ありがとうございます…!
助かりました…っ」
『何かあればいつでも連絡してくれ。
では、一旦切るな』
プツリと切れたスマホを
ふみのはぎゅっと抱きしめた。
この安らぐ気持ちは
以前にも感じたことがあるような気がする。
でもそれがいつだったかは、
はっきりと思い出せない。
熱のせいだろうか。
ふみのはそのままゆっくりと瞼を閉じた。
・・・
カタンッ───
何か物音がして、
ふみのは目を覚ました。
まだ頭がぼうっとする。
熱はあまり下がっていないようだ。
鉛のように重くなった体を
ふみのはゆっくりと起こした。
再び、カタンと音が鳴る。
それは玄関の方から聞こえてきた。
杏寿郎…さん…?
ふみのはふらつきながらも、
壁をつたって玄関へと歩いた。
「…杏、寿郎…さん、ですか…?」
ふみのは玄関に向かって、
掠れた声で訊ねた。
「! ああ、そうだ。
ふみの、大丈夫か?
今買ってきたものを
ドアノブに下げておいた。
…具合は、どうだ?」
「本当に、ありがとう、ございます…っ。
まだ少し、熱が、…あるみたいで…」
切れ切れに話すふみのの苦しさが
杏寿郎にも伝わってくる。
「ふみの、薬は…飲んだか?」
「…あ、くすり…は…、
えと…、ま だ…」
突然、ふみのの視界が
ぐにゃりと曲がった。
バタンッ
「!? ふみの!?」
突然聞こえた物音。
杏寿郎はドアに向かってふみのを呼んだ。
「ふみの!大丈夫か!?」
ふみのからの返答がない。
杏寿郎は咄嗟に玄関のドアノブを引くと、
ドアには施錠がされていなかった。