火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第6章 放たれた光
いつもより、ゆっくりと、
優しく言う杏寿郎の声に
ふみのは杏寿郎の背中にそっと手を回す。
杏寿郎の日の光のような香りと
ふみののやさしい香りが混ざり合う。
「ううん。私は杏寿郎が無事に帰ってきて欲しい。
ただ、それだけなの。…こんなことしか、できないけど」
「そんなことはない。
俺は、ふみのの笑顔にいつもどれだけ救われていることか」
「私も杏寿郎の優しさに、たくさん助けてもらっているの。
いつも…本当にありがとう」
二人は想う。
ああ、なんて、愛おしい、と。
顔を上げ、杏寿郎の燃えるような瞳に
ふみのの瞳が映る。
ふふとふみのは微笑む。
杏寿郎はしあわせそうに
ふみのを見た。
「…お握りの中身、梅干しでいい?」
「ああ!ふみのの結ったものなら、何でも食べるぞ!」
あははとふみのは笑い、
くるりと向きを変えて熱い米を握る。
杏寿郎は、その後ろ姿を愛おしく見つめた。
杏寿郎は槇寿郎の部屋に向かった。
朝日が家の中にも差し込み始めていた。
杏寿郎は襖越しに
槇寿郎に声をかけた。
「父上、おはようございます。
朝早く、申し訳ありません。
只今より、最終選別へと行って参ります。
今まで父上から教えていただいたことを出し切れるよう…」
「煩い!!!」
「…っ」
「お前に鬼殺隊は向いてない!!」
なんとなく、言われることは分かっていた。
「俺は父上のような鬼殺隊士に、
…そして、炎柱を目指します。
行って参ります」
杏寿郎は静かにその場を離れた。
槇寿郎は、そっと襖を開け、
杏寿郎の後ろ姿を見ていた。
「それでは行って参る!!ふみの!千寿郎!」
家の門の前で、ふみのと千寿郎は
杏寿郎を見送った。
「兄上、どうか、お気をつけて…っ。
お帰りをお待ちしております」
「ああ!ありがとう!家のことを頼む!」
「杏寿郎、気をつけて。ここで待ってるね」
「ああ!行ってくる!」
ふみのと千寿郎は、
杏寿郎が見えなくなるまで手を振った。
神様、母上様、どうか杏寿郎をお守りください
どうか、どうか、杏寿郎が無事に、帰ってこれますように
杏寿郎がいない七日間が始まった。