火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第5章 それぞれの思い
杏寿郎の最終選別まで、
あと二月と迫ってきていた。
翌朝、ふみのが朝食の支度をしていると、
杏寿郎が台所へ入ってきた。
「ふみの!おはよう!」
「杏寿郎!お、おはよう!」
「今日は少し走ろう!食事を終えたら始める!」
「う、うん!わかった!
片付けて、着替えたらすぐに行くね!」
「うむ!」
いつも通りの杏寿郎に、
ふみのはほっとした。
(昨日の自分は何だか変だったな…)
「そうだ、手の具合はどう?」
「ああ!全く問題ない!
ふみのの手当のおかげだ!ありがとう!」
「それはよかった!」
「うむ!俺は父上の様子を見に行ってくる!」
「あ!杏寿郎っ!」
杏寿郎が台所から出ていこうとするのを
ふみのは呼び止めた。
「ん?どうした?」
「私…私ね!その…、きっ…」
“鬼殺隊に入隊したいと思っているの”
「……っ」
「?どうした?」
「えっと…」
ふみのは途中まで言いかけて、
話すのを止めてしまった。
「…き、昨日、教えてくれた、素振りの手首の使い方、
もう一度教えて欲しいなって、思ってて!」
「ああ!もちろんだ!
走り込みの後、練習しよう!」
「あ、ありがとう!
朝食、もうすぐだから、待っててね!」
「うむ!ありがとう!」
台所を出ていく杏寿郎の背中を見つめる。
(だめだ…言えない…)
きっと、体力がないこんな今の私では、
無理だと、言われそうな気がする。
自分は杏寿郎のように、
鬼殺隊の家系でも何でもない。
優れた武術の才があるわけでもない。
少し前から木刀を振り始めたばかりで
大した基礎体力も備わっているわけでもない。
素振りも、ようやく何となくだが
形になってきたぐらいだ。