火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第32章 《番外編》浅縹のひかりに願いを
やはり事前にふみのに連絡をしてから
くれば良かったと、
杏寿郎は小さくため息を落とした。
一先ず出直そうと、
杏寿郎が出口に向かおうとした時。
「…お久しぶりです。煉獄さん」
聞き覚えのある声に、
杏寿郎は後ろに振り返った。
「…時透……?!」
そこには、数冊の本を抱えた
無一郎が立っていたのだ。
「…驚いた…っ、
時透も現世に…。
そして記憶も…」
「…はい。
でも家族で記憶があるのは僕だけです。
…煉獄さんも、記憶があるんですね」
相変わらず感情を表に出さない無一郎だったが、
鬼殺隊にいた時よりも、少しだけ大人びて見えた。
「…弟さんも、よくお見かけしています。
すごく似ていたので、
初めは煉獄さんかと思いましたが…。
…今日はお一人でいらしているんですか?」
「あ、ああ。
…仕事で使えそうな本があればと、思ってな」
何となく、無一郎の視線が鋭く感じた。
そうですか、とぼそりと呟く無一郎は、
さらに杏寿郎を見つめる。
「…ふみのさんなら、今日は休みです」
「…!!」
まさか無一郎からふみののことを
話してくるとは思わなかった。
杏寿郎は返答に詰まった。
「…そう、なのか」
「…だって、煉獄さん、
ふみのさんに、
会いにこられたんでしょう?」
「…っ!」
図星だ。無一郎にまんまと当てられ、
杏寿郎はさらに言葉に詰まる。
「…ふみのさん、
煉獄さんに再会されてから、
すごく、…嬉しそうでした」
「…!」
「…僕のことは、やっぱり覚えていなくて、
…すこし悲しかったですが、
それでも、
ふみのさんは、
ふみのさんのままでした。
ふみのさんの笑った顔は、
…あの時と何も変わっていなくて。
それはいつも煉獄さんに
向けていた笑顔でした」
「…!!」
ああ、そうだったのか、と、
杏寿郎は無一郎がふみのに
想いを寄せていたことを
この時初めて知った。
鬼殺隊にいた頃は、
自分と恋仲であったがために、
それ以上の気持ちをもつことが
できなかったのだろう。
でも、今世において、
前世の記憶がないふみのと再会し、
無一郎はその想いをすこしずつ募らせていたのだ。