火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第32章 《番外編》浅縹のひかりに願いを
「…時透、すまない。
俺がふみのの前に現れなけ…」
「煉獄さん。
ふみのさんは、
たとえこの先、…記憶が戻らなくても、
煉獄さんを待っています。
…煉獄さんを、好きになります。
今もきっと、煉獄さんのことを、
想っていると思います」
ほんの僅かに、無一郎の瞳が揺れた気がした。
けれど、その目はただじっと
杏寿郎を見つめ続けていた。
「…ふみのさん、
今日は発熱で休んでるんです」
「…!!」
今朝そう電話がありました、と、
無一郎は窓の外を見つめて、
そして何かに納得したように笑みを落とした。
「ふみのさんには、
…俺じゃないと思うんです」
「…っ! 時透っ…、」
「ふみのさんは、
煉獄さんを、待っています。
きっと、そのはずだから」
杏寿郎にそう話す無一郎は
二人の幸せを願うように笑っていた。
「時透、ありがとう」
杏寿郎は無一郎にそう伝えると、
図書館を後にした。
・・・
…38.9℃…
どうしよう 全然下がらない…
先日からなんとなく気怠さがあり、
ふみのは風邪薬を飲んで
どうにか誤魔化し過ごしてきたが、
それも限界を迎えてしまったようだ。
体の節々が痛く、熱さで汗が止まらないのに、
背筋がぞわりと悪寒が走る。
こんな時、一人暮らしという現実に
ただただ虚しさと寂しさを覚える。
夕方まで寝て、しばらく様子を見ようと、
ふみのが瞼を閉じた時だった。
スマホの着信が鳴った。
職場から仕事の電話だと思い、
手探りで枕元のスマホを手に取った。
「…はい。一ノ宮です。
お疲れ様です。すみません、今日は休んでしま…」
『突然すまない、急に電話をして…』
「…っ!…杏寿郎…さん…?
す、すみません、私…、職場と勘違いして…」
『時と…、図書館のスタッフの方に、
ふみのさんが体調を崩していると聞いて…、
その、心配になって連絡してしまった。
何か必要なものがあったら言ってくれ。
薬など足りているか?』
「そんな…!大丈夫、です…っ!
少し寝れば治ります…!
お気遣いいただき…、
ありがとう、ございます」
弱々しく話すふみのの声に
杏寿郎は居ても立っても居られなくなる。