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火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】

第32章 《番外編》浅縹のひかりに願いを




杏寿郎の笑顔にどきどきするも、
どこか安心するふみのがいた。

なぜ、隣にいるだけで、
こんなにも居心地がいいのだろう。

穏やかに微笑む杏寿郎の横顔に
ふみのはもう心奪われていた。



程なくして、
車はふみののマンションの前に止まった。

「…ふみのさん?」

杏寿郎に呼ばれて、
ふみのはゆっくりとその緋色の瞳を見た。


「なんだか…とっても不思議です。
 杏寿郎さんとお会いして
 そんなに時間が経っていないのに、
 …ずっと前から知っていたみたいです」

「…!」


そのふみのの言葉に、
杏寿郎が揺らいだ。

杏寿郎は視線を
ゆっくりと自分の手元に戻した。


「…もし、…そうだとしたら?」

「…??…杏寿郎さん、
 それはどういう…意味ですか…?」


杏寿郎の言葉の意図がわからず、
混乱するふみの。


「…いや、何でもない。忘れてくれ」


杏寿郎から、笑みが消える。

ふみのは杏寿郎と出会ってから、
今まで感じてきた不思議な感覚を
少しずつ思い出していた。


「…以前、私は杏寿郎さんと
 一度お会いしているのに、
 …私がそれを忘れてしまっている…、
 ということですか…?」

「…いや。ふみのさんとは
 2ヶ月前、図書館で会ったのが初めてだ。
 …俺から言い出しておいてすまない。
 …どうか忘れてくれ」


初めてきく杏寿郎の沈む低い声に、
ふみのは動揺を隠せない。


「…杏寿郎さん、とてもおかしなことを、
 訊いてしまうのですが…、
 …杏寿郎さんと私は、
 "今"ではない、…"違うどこか"で、
 一度お会いしてるということなんですか…?」

「…っ!」


杏寿郎の瞳がふみのに見開く。

驚いた。まさかふみのが、
そんなことを訊いてきてくれるなんて。

杏寿郎は、どう答えるか迷ってしまった。

そうだと、前世のことを話すのが正しいのか、
今の、このままの二人で、いればいいのか。

暫くの間、気まずい時間が流れた。

「…なんか、ごめんなさい。
 私が変なこと訊いてしまったから…っ」

「いや、違うんだ。
 ふみのさんの、所為ではない」

車内の空気が重くなる。

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