火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第32章 《番外編》浅縹のひかりに願いを
空高く伸びたひまわりは太陽に負けじと、
ゆらゆらと風に揺ながら
大空を見上げていた。
「折角ですので、
下に降りてみませんか?」
「はい!」
すると先に石の階段を降りようとした杏寿郎が
ふみのの前に手を差し出した。
「…" ふみの " さん、よろしければ、」
「…っ!」
向けられた掌の意味に、
ふみのは緊張と嬉しさとで、
胸がはち切れそうだった。
「あ、ありがとうございます…っ!
…" 杏寿郎 " …さん…!」
杏寿郎の差し出された掌に、
ふみのはそっと自分の手を重ねた。
杏寿郎の緋色の瞳が、
ふみのにさやしく微笑むと
その細い手をやさしく握り返した。
繋がれた寄り添う二人を、
大輪のひまわりたちだけが見つめていた。
太陽の光が燦々とさす猛暑の中、
ふみのの日傘の下を
そよ風が時折すり抜けてゆき、
二人はひまわり畑を並んで歩いた。
そして、園内の木陰にあったベンチで
二人が一休みをしていると、
頭上の雲行きが
少しずつ怪しくなってきた。
「…うむ、
もしや夕立になるやもしれん。
ふみのさん、車に戻ろう」
「本当ですね…っ、
でも、ちょうど快晴の中、
ひまわりを見れて良かったです!」
「ああ、今日一緒に来られて…、…っ!」
ぽつ、ぽつ、と小さな雨粒が
ふみのと杏寿郎の頬を濡らした。
「「 ! 」」
雲は瞬く間に灰色に変わり、
雨は徐々に大きい音を立てながら
スコールのような雨足へと変わった。
駆け足で車に向かったが、
雨に打たれて二人の髪は濡れてしまった。
「びっくりしました…っ、
こんなに早く天気が変わるなんて…!
まさに、夏って感じですね」
「ああ、本当だな。
ふみのさん、これを」
杏寿郎は後部座席にあった
少し大きめのハンドタオルを
ふみのに渡した。
「あっ、ありがとうございます…!
でも、杏寿郎さんのは…?」
「俺はハンカチで大丈夫です。
お気になさらず使ってください」
「で、でも…、
…あっ、杏寿郎さんっ、
水滴が…っ!」
「…!」
ふみのは渡されたタオルを
咄嗟に杏寿郎の頬の水滴に当てると、
そのまま焔色の髪先に
滴る雨をやさしく拭った。