火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第32章 《番外編》浅縹のひかりに願いを
ふみのは照れながらも嬉しそうに笑うと、
エントランスの扉をそっと閉めた。
杏寿郎だけに向けられたふみのの笑顔。
そして手元に残る、
ふみのを抱きしめた時のぬくもり。
今日、この夜だけは、
このぬくもりが
どうか醒めないで欲しいと願いながら、
杏寿郎は自宅へと車を発進させた。
過去を知る杏寿郎と
そうでないふみの。
"また 会いたい"
二人の心に灯った同じ想いに、
夜空に鏤められた幾千もの星たちが、
やさしく瞬いていた。
・・・
「ええぇっ!?まじで!!?
ちょ、え??まじかよ、それ、」
「宇髄…っ!静かに…っ!」
夏休み初日の昼前のこと。
話があると杏寿郎から連絡を受けた天元は
とあるカフェにいた。
「その、連絡先もだし、
帰り際に手ぇ振ってくるとかさ…、
これもうアレじゃん、
完っ璧に煉獄のこと、好きじゃん」
「いや宇髄、そうとは限らないぞ…。
たまたま話の流れで、
ということだって有り得る」
「は?たまたまで
連絡先交換するかよ?
それに気がなきゃ、
さっさと家入るだろ普通。
…にしても、ちゃんと律儀に
礼をしてくれる感じ、
…一ノ宮らしいっつーか、」
「ああ、…そうだな」
杏寿郎が嬉しそうに
手元のアイスコーヒーを見つめていた。
「とりあえず、この後、
『先日のお礼をお渡ししたくて』つって、
一ノ宮から連絡くんだろーな。
てかなんか、
すげぇいい感じじゃね?」
「…うむ。浮かれないようにと
気をつけているつもりだが…。
ここまで上手く事が進むと、
平常心を保つのが難しいな…」
「いやこんなイイ感じになってて、
冷静になれるヤツなんでいねーだろ!
…“やれるとこまでやってみる”、だろ?」
天元にそう言われて、
杏寿郎は自分の気持ちを思い出す。
ふみののことを
心から好きだと想う気持ちを。
「ああ、そうだったな。
ありがとう。宇髄」
「そんじゃっ、
不死川たちも誘って
駅前の天丼でも食おうぜ!!」
「うむ!承知した!」
その頃、ふみのは
自宅のキッチンで
お菓子のレシピ本を真剣に眺めていた。