火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第32章 《番外編》浅縹のひかりに願いを
そのやさしい声に
ふみのの中の恐怖が
消えていくようだった。
ふみのと杏寿郎の瞳が交わる。
「…とっても、
怖かった、です…っ」
ふみのの視界が涙で滲む。
止まらない涙と嗚咽をおさえるように
ふみのは顔を両手で覆った。
すると、ふわりと
あたたかい何かが
ふみのを包みこんだ。
気付くと、
ふみのの目の前には
杏寿郎の肩があった。
ふみのは、
杏寿郎に抱きしめられていたのだ。
「もう、大丈夫だ。
俺が傍にいる」
杏寿郎の腕がふみのの背中にそっとまわり、
もう片方の手で
頭をやさしく撫でていてくれていた。
初めて異性に抱きしめられるぬくもりに
ふみのの鼓動は性急に早まっていく。
あれ…
この香り…─────
ふみのの脳裏に突如現れた
眩しいほどに煌めき、
燦々と光る太陽。
おひさまみたいに
あたたかくて
懐かしい このぬくもり
私は
前にも
この香りを
どこかで────…
それは自分ではない
他の誰かの記憶の中にいるような
不思議な感覚だった。
「れ…、煉獄さん…?私…っ、」
「…っす、すまない!!」
ふみのの声に、
勢いよく離れた杏寿郎は
深々と慌てて頭を下げた。
「不快な思いをさせてしまい、
失礼をいたしました…っ」
「い、いえ!
全然、その、大丈夫ですので…!」
ふみのは
先程の香りのことが気がかりだったが、
あまり深く考えないようにした。
何となく気まずい雰囲気になるも、
杏寿郎がその沈黙を割いた。
「ふみのさん、
ご自宅までお送りします」
「 ! いえっ、大丈夫ですよ!
すぐの大通りでタクシーを拾いますので…!
これ以上、煉獄さんに
ご迷惑はかけられません…っ」
「いや、今日はもう遅い。
何かあっては大変だ。
…どうか俺に、
送らせてもらえませんか?」
杏寿郎のその眼光に見つめられ、
ふみのはその厚意に
ぺこりと頭を下げた。