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火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】

第32章 《番外編》浅縹のひかりに願いを




杏寿郎は、ふみのを自宅に
突然連れ込むのはどうかと思ったが、
そのまま帰らすことなどできなかった。

「手首の他にも、
 痛むところはありますか?」

「…いいえ、
 大丈夫…です」

杏寿郎はふみのが座る前に腰を下ろすと、
その細い手首をゆっくり持ち上げ、
湯で湿らせたタオルでやさしく拭った。
そして湿布を貼り、
丁寧に包帯を巻きつけてゆく。

「きつくはないですか?」

突然顔を上げた杏寿郎と視線が重なり、
ふみのの心臓がときんと跳ねた。

「っ! はい!大丈夫です…!
 煉獄さんの包帯の巻き方、
 すごく綺麗です」

「ありがとうございます。
 小さい頃に剣道をしていて。
 怪我をするたびに
 自分で包帯を巻いていました」

杏寿郎は話しながら、
ふみのの手首の形に合わせて
くるくると包帯を巻いていく。

ふみのは目の前にいる
杏寿郎をじっと見つめた。

こんなふうに
男性に触れられたのは
ふみのは初めてだった。

今までのふみのの
人生において数回ではあるが、
異性と出かけたりはしたことはあったものの、
交際まで発展したことはなかった。

否、その異性達と理由は不確かだが
交際をしたくないと思ってしまうのだった。

でも何故か不思議と
杏寿郎の隣にいると
ふりそそぐ陽の光のようにあたたかく、
心がふんわりと和らいでいくようだった。


「普段も、あの道を?」


「…!」


包帯を巻き終えて、
杏寿郎がふみのに視線を向けた。

ふみのは俯き、
自分のしたことを悔いた。

「…いえ、いつもは
 大通りを歩いて帰るんです。
 …でも、残業で遅くなってしまって、
 早く家に帰りたいと思って、
 …あの道を、通って、しまったんです…」

膝の上に乗せたふみのの手が、
ぎゅっと強く握られる。

ふみのの耳に残る
あの歪な男の声色。
身動きができないほどに
酷く締め付けてきたざらついた手。
そして鼻につく焦げたような煙草の匂い。

すると途端にその光景が鮮明に蘇り、
ふみのは震え出すと
その頬にはまた涙が伝った。


「…怖かっただろう。
 でも、もう大丈夫だ」


杏寿郎が指先で
俯くふみのの頬に伝う涙を
そっと拭う。

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