火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第32章 《番外編》浅縹のひかりに願いを
「また一ノ宮に会えたのは
まじで運命みたいなもんなんじゃねぇの?
…会えて、話ができてって、
すげぇラッキーじゃん。
とりあえず、
やれるとこまでやってみるってのは、ど?」
天元のアドバイスに、
杏寿郎の気持ちは
すこしずつ軽くなっていくようだった。
「…うむ、そうだな。
やれるところまで…か。
…また図書館に、
行ってみようと、思う」
どこか遠くを見つめていた杏寿郎に、
すこしずつ笑みが戻ってゆく。
「てかっ、ここは一発ド派手に
俺様が押しかける演出もアリじゃねッ?!」
前向きになった杏寿郎に、
わざとその提案を持ちかける天元。
「!! う、宇髄!
そんなことをしたら、
ふみのを驚かせ…っ」
「ウソウソっ!
じょーだんだっての!
ま、伊黒はあー言ってたけど、
俺はいつでも、力になるぜ」
天元が杏寿郎の背中を押すように
とんっとその肩をたたいた。
「いつもありがとう。宇髄」
二人は飲んでいた缶コーヒーを飲み干すと、
職員室へと戻っていった。
杏寿郎とふみのの間に
再び灯ったちいさな光。
どんな形であれ、
ふみのと今世でも
再会することができたのだ。
杏寿郎は、閉ざしかけていた
ふみのへの気持ちを
少しずつあたためていった。
・・・
それからまもなくして、
中間試験が始まり、
教師たちは一斉にその採点作業に追われた。
杏寿郎はそれと並行して、
進路指導や三者面談の準備、
夏休みに行われる剣道部の大会の指導も重なり、
毎日があっという間に過ぎていった。
そのせいもあり、
図書館になかなか出向くことができず、
ふみのと最後に会ってから、
気付けば1ヶ月以上の時間が経っていた。
もうきっと自分のことなど
覚えてはいないだろうと、
杏寿郎は車の助手席を見るたびに、
ふみののことを思った。
そしてようやく
異例続きだった梅雨が明けたかと思うと、
今度はそれを今か今かと
待ちわびていたかのように
灼熱の太陽がアスファルトの地面を
さっそくといわんばかりに
じりじりと焦がしはじめた。
先日、夏休み前の期末試験も終え、
無事に1学期の終業式を迎えた校内は、
生徒の浮かれはしゃぐ声で祭りのようだった。