火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第32章 《番外編》浅縹のひかりに願いを
「ここの食パン、
とっても柔らかくて美味しいんです!
良かったら召し上がってください!」
ふみのは車の窓から
小さな白い紙袋を杏寿郎に手渡した。
「…! すみません、
かえって気を遣わせてしまい…」
「いえ!大丈夫ですよ!
本当に、とっても助かりました。
煉獄さんも、お気をつけて」
「こちらこそ、ありがとうございます。
さ、濡れてしまうから、どうぞ店の中へ」
ありがとうございます、とふみのは
嬉しそうに頭を下げ、店へと入っていった。
杏寿郎はそれを見届けると、車を発進させた。
「ふみのさん…っ?!
今、お兄ちゃんから
ふみのさんが来たって聞いて…!
雨、大丈夫でしたか…!?」
ふみのが店に隣接するカフェで待っていると
奥の厨房から前髪にリボンの髪留めをつけた
エプロン姿の竈門禰󠄀豆子がやってきた。
禰󠄀豆子はふみのの大学の後輩だった。
「禰󠄀豆子ちゃん!
うん、図書館で会った人に
送ってもらって…!」
「そうだったんですね!
ならよかったです!
今ちょうど、お店も落ち着いたので、
作りましょう?アップルパイ!」
互いに予定を合わせ、
月に何度かお菓子作りをしている
ふみのと禰󠄀豆子。
「うん、ありがとう!
よろしくお願いします!」
楽しみね!と二人は笑うと
店の奥から家へと上がっていった。
・・・
「ええっ?!まじで?!
もうソレ、
完っ全にドライブデートじゃん!!」
週明けの放課後、職員室からすぐの外階段で
杏寿郎は土曜日のことを天元に話した。
「宇髄!声が大きいぞ…!
…声をかけて、ふみのに避けてしまわれたら、
もうそれまでだと、思ったのだが…、」
杏寿郎は視線を落とし、
その言葉の続きに詰まった。
「…まあ、そうよな。
そんな簡単に…諦められるわけ、ねぇよな」
天元は、杏寿郎の言いかけた
その続きを分かっていた。
一度好きだと思ってしまったら、
それをなかったことにするなど、
容易いことではない。
天元は今までずっと隣で見てきたのだ。
杏寿郎がふみのを
ずっと想い続けていることを。
「でもさ、」
天元が杏寿郎の横顔を覗いた。