火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第32章 《番外編》浅縹のひかりに願いを
「もしもし、禰󠄀豆子ちゃん?
ごめんなさい、
今図書館を出るところなんだけど、
私ったら傘を忘れてきちゃって…」
そこには、スマホで通話をしている
ふみのが立っていたのだ。
禰󠄀豆子…?!
では炭治郎も
今世にいるのか…!?
杏寿郎はそのままふみのの会話に
耳を立てた。
「うん…うん。
禰󠄀豆子ちゃんも忙しいのに、
本当にごめんね…。
それじゃあ直接、パン屋さんに向かうね。
…え?本当?嬉しいわ!いつもありがとう。
うん、うん。じゃあまた後でね」
ふみのは通話を終えると、
一向に止む気配を見せない黒い雨雲と
腕時計を交互に見つめていた。
…ふみのは俺を 覚えていない
声をかけて
避けられてしまうのであれば
それまでのこと
杏寿郎は思い切って
ふみのに声をかけた。
「すみません、
先日図書館で受付をしていただいた者です。
…俺でよければ、お送りしましょうか?」
「…あっ…!
先日はご利用いただき、
ありがとうございました!
でも、すぐに止むと思いますので、
大丈夫ですよ!
お声がけくださって、
ありがとうございます」
「俺はもう帰るだけですので、
お気になさらず。
…盗み聞きをするつもりはなかったのですが、
何かお約束があるのでしょう?」
「あ…、そう、なんです…。
…でも、本当に…大丈夫なんですか…?」
「ええ。ここで待っていて、
風邪でも引いたら大変だ。
どうぞ、俺の傘に」
「す、すみません…っ、
ありがとうございます…っ」
杏寿郎は傘をさすと、
ふみのと並んで車に向かった。
ふみのが濡れないように杏寿郎は傘を傾けた。
すぐ隣にあるふみのの肩が触れそうになる。
ああ この香りは───…
雨に混ざってかすかにただよう
懐かしく優しいふみのの香りが
ふんわりと杏寿郎の鼻先をかすめた。
杏寿郎は助手席のドアを開けふみのを乗せると、
自分も運転席に乗り込んだ。
「行き先は、いかがしましょう」
「え、えと…、この近くにある、
竈門ベーカリーというパン屋さんなのですが…、
…あっ、ここです!」