火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第32章 《番外編》浅縹のひかりに願いを
無理をして笑う杏寿郎に、
皆はそれ以上何も言えなかった。
今世でも
ふみのに会えただけで
もう充分に 幸せだ
杏寿郎はふみのへの感情に蓋をするように、
目の前の仕事にただひたすらに没頭した。
・・・
それから2週間後。
その日は朝から晴れていた。
杏寿郎は部屋のベッドに寝転びながら、
天井を眺めていた。
本を返さねば…
図書館で借りた本の利用期限が迫っていたのだ。
でも図書館に行けば、
ふみのに会ってしまうことになる。
杏寿郎は大きく息をはくと、
ゆっくりと目を瞑った。
あっ 杏寿郎?
今日ね 杏寿郎が大好きな
さつまいものお菓子を作ったのよ
あとで一緒に食べましょう?
好きな色…
白が一番好きかなあ…!
杏寿郎を
好きと思えることが 嬉しくて
それだけで私は とっても幸せなの
私も 杏寿郎のことが 大好き
この先も 永遠に
ふみのの笑顔が、その声が、
聞こえてくるようだった。
蓋をしたはずのふみのへの感情が
また溢れ出しそうになるのを
杏寿郎はぐっと堪えた。
ただ 本を返しに行くだけだ
杏寿郎はベッドから体を起こすと、
身支度をして図書館に向かった。
・・・
杏寿郎は緊張した面持ちで、
図書館の入り口をくぐる。
深呼吸をして、返却カウンターに向かった。
……今日は 休み、か…
館内を見渡す限り、
ふみのの姿は見られなかった。
杏寿郎は胸を撫で下ろし安堵しながらも、
すこしでもふみのに会いたかった気持ちとで
複雑な心境だった。
でも これでいい
これで 良かったんだ
杏寿郎は自分を宥めるように、
返却手続きを終えると
玄関へと向かった。
外は先程と打って変わって、
大雨だった。
あんなに晴れていたのに…
洗濯物を干さないで正解だったな
今朝観たニュースの天気予報士も
今年の梅雨は例年にないくらいの読み辛さで
四苦八苦していると話していた。
念の為にと持ってきた長傘を杏寿郎は雨空へとさし、
車に向かおうとした、その時だった。