火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第32章 《番外編》浅縹のひかりに願いを
そのふみのの様子を
無一郎が遠くの本棚の影から見つめていた。
・・・
「まじで?!一ノ宮が?!
どこ?!どこにいたんだよ!?」
週明けの昼休み。
天元の声が職員室に響く。
杏寿郎は、週末行った図書館で
ふみのに出会ったことを告げたのだ。
「…でも、何も覚えてねェのか…」
実弥は、杏寿郎に見えないように
深いため息をついた。
「で、でもまだ分かんねぇぜ?!
今はまだ思い出せねぇだけで
きっかけがあれば、
記憶が戻るかもしれ…っ」
「宇髄。過去の記憶が必ずしも、
人を幸福にするとは限らない。
…思い出して、辛い記憶の方に、
囚われてしまうことだってあるだろう」
天元の言葉を、小芭内が遮った。
「…煉獄の気持ちは痛いほど分かるが…、
今の一ノ宮が過去の記憶を
どう受け取るのか、そこが問題だ。
…記憶を思い出させるというのは、
安易にすべきではないと思うがな」
杏寿郎は、小芭内の言葉にはっとした。
確かに、記憶を思い出すことが、
全て良い方に傾くとは言い切れない。
杏寿郎は悔しさとやるせなさに下唇を噛んだ。
「すまない…、
出過ぎたことをした」
小芭内が謝ると、
杏寿郎は大丈夫だと、
俯く顔を静かに上げた。
「…そんなことは有り得ない」
暫く続いた沈黙を義勇が割く。
義勇の青い瞳が、杏寿郎をじっと見つめた。
「…一ノ宮が煉獄を忘れるなど、
絶対に有り得ない。
今はまだ、思い出せてないだけだ。
…何かきっかけがあれば、
必ず一ノ宮は記憶を取り戻す」
その言葉に、杏寿郎の瞳が揺れた。
「…冨岡、ありがとう。
そうだったら…どんなに嬉しいか。
…だが、伊黒の言う通りだ。
今のふみのには、今世での生活がある。
…もしかしたら、恋人もいるやもしれん。
俺は自分のことしか考えていなかった」
寂しそうに笑う杏寿郎に
皆が胸を痛めた。
「で、でもよ、煉獄、
まずは一ノ宮に話しかけてみるってのも…」
「いや!
ふみのが今を、この今世にいてくれて、
あの笑顔が見れただけで、俺はもう充分だ。
もうこの話は終いにしよう!
皆を巻き込んでしまって、
すまなかった!」