火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第32章 《番外編》浅縹のひかりに願いを
もしや
ふみのには
前世の記憶が、
ふみのは和かな笑顔のまま、
手元のパソコンで受付手続きを進めてゆく。
「この度は、ご利用いただき
ありがとうございます。
では、こちらの申し込み用紙に、
お名前と生年月日、ご住所をいただけますか?」
ふみのはにこりと微笑み、
杏寿郎の前に用紙とペンを差し出した。
ふみののその笑顔も、
立ち振る舞い方も、
全てがそのままだった。
杏寿郎は動揺し、
用紙を書くその手が震えた。
でも、この自分の名前を見て
何かを思い出してくれるのではと、
杏寿郎は書き終えた用紙を
ふみのに手渡した。
「ご記入ありがとうございます。
えと、……煉獄…杏寿郎様…、ですね。
ただ今登録いたしますので、
少々お待ちください」
ふみのはそのまま
デスクのパソコンに目を向け、
杏寿郎はただ茫然とそれを見つめていた。
ふみのには
過去の記憶が
無い─────
杏寿郎の視界から、
全ての色と音が消えていくようだった。
体が水の底に沈んでいくように
重たくなってゆく。
何故、記憶がある者と
そうでない者がいるのかと、
杏寿郎はやるせなさに噎せ返る。
杏寿郎の拳に、力が入った。
そんなことを考えても仕方がない
どうすれば
ふみのに
分かってもらえるのだろう
杏寿郎は険しい表情のまま、
ただじっと立ち尽くしていた。
「……煉獄様…?
いかがされましたか…?」
ふみのが心配そうに、
杏寿郎の顔を覗き込む。
杏寿郎を見つめるふみののその瞳は、
あの時と何も変わっていなかった。
杏寿郎は奥歯を噛み締め、
必死に笑顔をつくってみせた。
「すみません…、大丈夫です。
失礼をいたしました」
「お困りなことがありましたら、
いつでもお声がけくださいね。
こちらが図書カードになります。
本をお借りになる際は、必ずお待ちください。
返却は、この隣のカウンターになります。
因みに…、本日は本を借りられますか?」