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火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】

第32章 《番外編》浅縹のひかりに願いを




「ああ、戸締り等はやっておく」

「伊黒、すまない。
 ありがとう」

杏寿郎は皆にも挨拶を済ませると、
小走りで駐車場へと向かった。

雨は更に強さを増していた。

・・・

杏寿郎が駅のロータリーに到着すると、
雨宿りをしていた千寿郎は車に気付き、
助手席に乗り込んだ。

「兄上、すみません、
 迎えに来てくださって、
 ありがとうございました…!
 こんなに土砂降りになるとは思わず…っ」

「なに、気にするな。
 俺もちょうど仕事を
 終えたところだった」

車が発進し、雨はワイパーが張り切る前に、
滝のように次々とフロントガラスに流れた。

「兄上、お一人暮らしはいかがですか?」

「ああ、…時々母上の手料理が恋しくなるな。
 千寿郎は変わりないか?」

「はい!父上も母上も元気です!
 時々、父上は寂しそうにしていますが…」

そうか、と杏寿郎は槇寿郎の顔を思い出す。
普段然程、口数は多くはないが、
家を出ると決まった時は、
足りない物はないかと、何度も訊いてくれた。

杏寿郎以外の家族には、
前世の記憶は無かった。

前世で病死した母の瑠火は
今世では大きな病気もなく、
元気に過ごしているその姿を見て
杏寿郎は何度も目頭が熱くなった。

家族とは、なんといいものだろうと
日常の何気ない風景に
杏寿郎は何度も癒されていた。


でも、もしここに、
ふみのがいてくれたら、と
そう思う度に杏寿郎は寂しさで胸を痛めた。


杏寿郎が30歳を過ぎた頃から、
槇寿郎と瑠火は見合いの話を
持ちかけてくるようになった。

杏寿郎は何とか理由をつけて誤魔化し続け、
それももう限界を迎えた頃、
今は仕事に集中したいと家族に伝え、
半年前に一人暮らしを決めたのだった。




 ふみのに 会いたい




杏寿郎はその一心だった。



車が実家の前に止まる。

「兄上、送っていただき、
 ありがとうございました!
 …ご帰宅されたら、
 お仕事の続きをされるのですか?」

「いや、今日は早めに寝て、
 明日取り掛かろうと思う」

「もし兄上がよろしければ、
 少し寄っていかれませんか?
 きっと父上も母上も喜びます!」

嬉しそうに笑う千寿郎に、
杏寿郎にも笑みが溢れた。

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