火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第32章 《番外編》浅縹のひかりに願いを
杏寿郎は職員室の自分のデスクに戻ると、
すぐさま手元の作業に取り掛かった。
「いや〜今日も残業かあ。
煉獄センセ、何時まで残る?」
同僚で美術教師を担う宇髄天元が
クラスの終礼から戻ってきた。
「宇髄、お疲れ様。
…そうだな…、
19時までには終わらせたいと思っているが…」
「天気もイマイチだしな。
ま、今日は華の金曜日だし、
サッと終わらせよーぜ」
「うむ」
まもなく中間試験を控えていることから、
教師達は試験問題の作成に追われていた。
他の教師も自分のデスクに着席するや否や
パソコンの画面を見つめ始める。
職員室にはキーボードの音だけが響いていた。
・・・
そして夜19時を回った頃。
外から雨音が聞こえ始め、
職員室の窓ガラスに
雨粒が激しく打ちつける。
今年の梅雨は突然大雨になったり、
そうかと思えば晴れ間がさしたりと、
不安定な気候が続いていた。
「おーすげェ降ってきやがった。
そろそろ切り上げるかァ?」
窓際の席に座る、数学教師・不死川実弥が
背もたれに寄りかかりながら、
窓の外を眺めていた。
「あらあら…っ。すごい雨ね…。
不死川くんの言う通り、
これ以上酷くなる前に、
今日は帰ったほうがよさそうね」
その隣に座る生物教師の胡蝶カナエも
心配そうに外を見つめる。
杏寿郎はふと、大学4年生で電車通学をしている
10個下の弟・千寿郎の帰路が心配になり、
帰り道は問題ないかとメールを送った。
するとすぐに返事が届き、
電車は通常運行とのことだった。
杏寿郎はほっと胸を撫で下ろし、
駅まで迎えに行くと千寿郎に伝えた。
「うむ、安全第一だ。
今日はもう皆で帰るとしよう」
杏寿郎がそう言うと皆が頷き、
帰り支度を始めた。
「折角の華金なのによぉ。
ま、中間終わったら、
皆でパーッと飲もうぜ!」
天元がニカニカと嬉しそうに
実弥の肩に腕を回す。
そいつはいいなァと
実弥も乗り気だった。
「…煉獄、どうかしたのか」
化学教師・伊黒小芭内が
スマホを見つめていた杏寿郎に
ちらりと目線を向けた。
「電車通学をしている
弟が気になってな。
今し方、連絡をしてみたところ、
特に遅延はないそうだ。
ただ駅まで迎えに行こうと思う。
すまないが、先に出ても良いだろうか」