火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第31章 《番外編》咲く色を知るのは
…!
あさはまだつぼみだったのに…!
ふみのの一番のお気に入りの芍薬が
満開を迎える中、
今朝見た蕾も太陽の日差しを受けて
花弁が少しずつ綻びはじめていた。
白に、桃色、赤と鮮やかな大輪が
こぼれ落ちそうなほどに咲き誇る。
葉も青々と大きく茂り、
地面を覆い尽くすほどだ。
・・・そうだ!
ここにしよう!
ふみのは思いついたように
芍薬の葉をかき分け、
苗の隙間にしゃがみこんだ。
上を見上げれば芍薬が青空に浮かぶように
そよ風にふわりと揺られ天を仰いでいた。
ふふ、ひみつきちみたい…!
思いがけない発見に
ふみのはわくわくと心弾む。
ふみのは誰もいない中庭で、
大輪の芍薬の下でしずかに息を潜めた。
・・・
むぅ…
どこにかくれているのだろうか…
杏寿郎はひとり敷地内の庭を
とぼとぼと歩いていた。
いくらかくれんぼといっても、
他所の家なので、
好き勝手に探し回るのは良くないと思い、
ただひたすらに庭を突き進む。
何か作業をしている女中や庭師は
杏寿郎に気づくとぺこりと会釈をした。
うむ…こまった…
ふみのとよしのがどこに隠れているのか
検討もつかず、杏寿郎は途方に暮れる。
すると少し先に、
背の低い木々が茂る庭が見えてきた。
杏寿郎は気になってその場所まで行くと、
そこには色とりどりの草花が見事に咲き溢れていた。
すごい…!
みごとなはなぞのだな…!
陽の光が燦々と草木を照らし、
野生の鳥の囀りが響く中、
杏寿郎はぐるりと辺りを見渡した。
…このはなは
なんというはなだろう…?
杏寿郎が目についたのは
満開に咲く芍薬。
中庭をすり抜けるそよ風が
その幾つにも並んだ大輪たちをふわふわと揺らした。
…なんと、うつくしいはななのだろう
色鮮やかな絹のような八重の花弁に、
僅かにただよう甘い蜜の香りが
杏寿郎の鼻腔を擽る。
…!
何故か鼓動が早まる。
杏寿郎は自分の胸に手を当てた。
初めて感じる、
胸をきゅっとくすぐられるような
どこか懐かしい気持ち。
パキッ
「 ! 」
すると枝が折れたような音が鳴り、
花壇に並ぶ芍薬の一本が異様な揺れ方をした。