火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第29章 蒼海の天水に光るは
「よもや…!
もしやふみのの母君か…?」
「うん…!
若い頃のかあさまだわ…!」
そこに写っていたのは、
袴姿の若がりし頃の
ふみのの母・みちだった。
その容姿は驚くほどに
ふみのと瓜二つだ。
「じゃあこのひとは、
かあさまじゃないの…?」
不思議そうに写真とふみのを
交互に見つめるひかり。
「そうよ。少し前にひかりにお話した
かあさまのかあさま。
ひかりのおばあさまよ」
「おばあさま…」
ひかりは初めて見るみちの写真を
まじまじと眺めていた。
「ふみの、よければ、
母君の写真を居間の棚に飾るのはどうだろう」
「うん…!ありがとう。
かあさまもきっと喜ぶわ!」
「…ねえ、かあさま、
このひとは、おじいさま?」
「…!」
ひかりが箱の中身から取り出した一枚の写真。
そこには婚礼の衣装を身に纏う、
建蔵とみちが写っていたのだ。
その後も箱からは、
ふみのの幼少期の写真や
よしのや健一郎の写真も出てきた。
そして、家族全員が写った写真も。
杏寿郎は箱に入っていた写真を
一枚ずつ丁寧に額に収め、
居間の棚に飾った。
思い出とともに
すこしずつ増えていく写真たち。
写真に写る皆は、幸せそうに笑っていた。
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「杏寿郎、付き合わせてしまってごめんなさい…」
「なに!気にするな!」
夕暮れ前、ふみのと杏寿郎は
二人で買い出しに来ていた。
今日、ひかりは五歳の誕生日を迎え、
ふみのと杏寿郎は朝から
その準備に追われていた。
槇寿郎と千寿郎も朝早くから祝いに駆けつけ、
久々の再会にひかりは大喜びだった。
しかしふみのは
午後に足りない食材を買いに出かけたものの、
ひかりが食べたいと言った芋羊羹を
すっかり買いそびれてしまったのだ。
夕暮れ前の街中は、
買い物客で一際賑わっていた。
「お客様の槇寿郎様と千寿郎くんにも
家の留守を頼んでしまったし…、
…本当にごめんなさい」
「案ずるな!
父上も千寿郎もひかりとの時間を
何よりも喜んでいるはずだ。
ふみのも朝から大変だったろう。
何から何まで
任せっきりにしてすまなかった」