火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第29章 蒼海の天水に光るは
しかし、杏寿郎がひかりにそう呼びかけても
何も返事がないので、
屈んでその小さい顔を覗き込んだ。
「…どうした、ひかり、
もうかくれんぼは終いか?」
「うん、かあさまにおはなしがあるから、
きょうはおしまい」
「成程!承知した!」
ひかりにすっぱりと断られてしまい、
我が子に振り回される杏寿郎を見て、
ふみのは思わず笑ってしまう。
「杏寿郎?ひかりがね、
宝箱を見つけたんですって」
「宝箱…?ひかり、
それは何処で見つけたんだ?」
「かくれているとき、
となりにあった、くろいはこなの」
「奥の部屋で見つけたみたいなの。
でも、どれのことだかさっぱりで…」
「ふむ、ではひかり、
その“宝箱”があるところまで
連れていってくれないか?」
「うん」
こっち!と、ひかりは
ふみのと杏寿郎を奥の部屋へと案内してくれた。
一番奥の部屋を開けると
窓はすべて障子が閉まり、
しんと静まり返っていた。
置かれている品々には、
風呂敷がかけられていた。
「これが、たからばこ」
「「…!」」
ひかりが指差したその“宝箱”は、
部屋の最奥にあった木箱の横に置かれていた。
箱はちょうどその木箱の影に隠れしまい、
入り口からは死角になっていたのだ。
杏寿郎は部屋に入るとその箱を手に取った。
箱は便箋が入るほどの大きさで黒い漆が塗られ、
金箔の葉の模様が装飾されていた。
「…何が入っているのかしら…?」
「うむ…、ふみの、
開けてみても構わないか?」
「うん…!」
杏寿郎がそっと箱を開けると、
そこには数冊の本らしきものと、
沢山の封筒が入っていた。
「…これは一体…?」
ふみのは箱から数冊の本を手に取り、
表紙を捲った。
「…!
…これは、とうさまの字だわ…!」
それはふみのの父・健蔵の日記だった。
短い文章ではあるものの、
日々の出来事が綴られていた。
すると、頁の隙間から一枚の写真がはらりと落ち、
ひかりがそれを拾い上げた。
「…かあさまだ!」
「えっ、私…っ?」
写真をじっと眺めるひかりの後ろから
ふみのと杏寿郎も一緒に覗き込んだ。