火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第29章 蒼海の天水に光るは
しかし、それ以上多くを語らずとも、
ふみのと杏寿郎が
我が子へ贈る想いは同じだった。
心が通う歓びに
ふみのと杏寿郎は微笑み合う。
光はどんな暗闇でさえも
明るく照らし出してくれる。
今までの二人の歩みを照らしてくれたように、
光は生きる希望そのものだ。
「この子の生きる道が
お日様の明るい日差しのように、
いつも輝かしいものでありますように。
…平仮名で、
ひかり、と思っているのだけど…、
どうかしら」
「ああ、俺もそう思っていた。
あたたかい温もりが伝わるような気がする。
この先の歩みが、希望に満ちた
光溢れるものとなるように、と
そう願いを込めて」
杏寿郎の腕の中で
穏やかな寝息を立てて眠るひかり。
幸せに溢れるふみのと杏寿郎に
カナヲとアオイも笑顔になる。
「ひかり。これからどうぞよろしくね」
「ひかり。元気で健やかに育ってくれ」
午後のあたたかな日差しが部屋中を包み込んだ。
それは煉獄家に生まれた新しい生命を
祝福しているかのようだった。
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それから年月が経ち、
ひかりはまもなく
五歳の誕生日を迎えようとしていた。
「かあさま、かあさま、
どこにいるの?」
ぱたぱたと家の廊下を走るひかり。
「かあさま」
ひかりは台所で昼餉の支度をする
ふみのを見つけると駆け寄り、
着物の裾を引っ張った。
「あら、ひかり、
とうさまとのかくれんぼはどうしたの?」
「たからばこを、みつけたの」
「…宝箱…?」
その意味が分からず、
ふみのは調理の手を止め、
ひかりの目線に腰を下ろした。
「…!
ひかり、一体どこに隠れていたの?」
ひかりの前髪には
小さな綿埃が幾つか付いていた。
「いちばんおくのおへや」
やはり、と、ひかりの綿埃を払いながら
ふみのは思った。
その部屋は、普段は殆ど出入りしておらず、
掃除も必要最低限しているだけで、
あまり使わない物を置いていた。
「む!ひかり!
見つけたぞ!」
すると台所に、杏寿郎が現れた。
ひかりとかくれんぼをする度、
鬼の役を担うのが杏寿郎の務めだった。