火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第29章 蒼海の天水に光るは
「…こんなに小さいのね…っ。
生まれてきてくれて、ありがとう…っ」
ふみのは手を伸ばし、
まだ赤く熱る赤子の頬を撫でた。
小さな瞳を瞬かせながら、
辺りを不思議そうに見回していた。
あたたかく、柔らかい生命に
ただただ胸が満たされてゆく。
「ふみの…本当にありがとう」
杏寿郎の瞳がうっすらと揺れ、
ふみのの頭を何度も撫でてくれた。
「ううん…、
杏寿郎がずっと手を握ってくれていて
とっても心強かったわ。
傍にいてくれて、本当にありがとう…」
杏寿郎はにこりと微笑むふみのを見て、
安堵から更に目頭が熱くなった。
「いや…、
俺はただふみのの手を握ることしか出来ず、
…無力な自分が不甲斐ない…」
「そんなことないわ…!
杏寿郎が隣にいてくれて、
どんなに救われていたか…っ。
…でも不思議ね。
杏寿郎と赤ちゃんの顔を見ていたら、
さっきまでの痛みなんて忘れてしまいそう。
私…、杏寿郎との赤ちゃんを授かれて、
本当にしあわせ。
本当にありがとう…!」
「感謝を伝えるのは、俺の方だ。
…ふみのにも赤子にも、
何事もなくて本当に良かった。
暫くはゆっくりと身体を休めるといい。
ふみの、その…、
子を抱いてみても…いいだろうか?」
「…!
もちろん…っ!」
杏寿郎は恐る恐る、
我が子を床からそうっと抱き上げた。
ふんわりとあたたかく、
耳を澄ませるとちいさな息遣いが聞こえてきた。
「…本当に、小さくて、
可愛らしいな…」
包(くる)みの中で懸命に手を動かす仕草に
杏寿郎の目尻が下がる。
「ねぇ杏寿郎、
名前は…どうする…?」
子の名前は特に決めておらず、
顔を見てから名付けようと
二人で話していたのだ。
「そうだな…。
ひとつ、思い浮かんだ名があるのだが…。
ふみのはどうだ?」
「私もね、そうなの。
どうかなって思っているのがあって…、」
二人は目を合わせると、
同時に口開いた。
「「…ひかり─────…、 …っ! 」」
ふみのと杏寿郎は
二人して同じ名を発したことに目を見開いた。