火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第29章 蒼海の天水に光るは
「うむ…、
一度医者に診てもらった方がいいやもしれん。
風邪であれば引き始めが肝心だ。
家のことは俺がやるから、
ふみのは休んでいた方いい」
「うん…、ありがとう。
そうさせてもらおうかな…」
ふみのは残りの朝餉を食べ終わると、
寝室で横になった。
何処と無く、気怠さも感じられた。
そしてふと壁に掛かった暦を見た。
…あれ…、まさか…っ
月のものが来ていない、と
ふみのは慌てて体を起こすも、
僅かに感じる嘔気と眩暈に襲われた。
少しの間、目を閉じ呼吸を整えると、
ふみのは庭で物干しをする杏寿郎に声をかけた。
「…杏寿郎、あの…っ」
「…ふみの!?起きて大丈夫か…?!」
「…あ、あのね、
もしかしたら、なんだけど…、」
ふみのは体調と暦から考えると、
懐妊している可能性があることを杏寿郎に伝えた。
杏寿郎は目を丸くして驚くと、
ふみのに抱きつき喜んだ。
その日の午後、
杏寿郎が近隣にあった産院を見つけるも、
ふみのの体調が優れず、
起き上がることができなくなってしまった。
杏寿郎は蝶屋敷にいるカナヲに文を出し、
現状のふみのの様子を綴ると
往診に来てくれることになった。
そして診察の結果、
ふみのは懐妊していた。
また軽度の悪阻の診断も受け、
症状が落ち着くまで
往診にて点滴治療を受けることになった。
「カナヲさん…、
突然のご連絡でこちらまでごめんなさい…。
蝶屋敷の皆さんにも迷惑かけてしまって…」
体調の変化に戸惑うふみのに
カナヲがにこりと微笑えむ。
「大丈夫ですよ。
今は辛いですが、日が経てば落ち着いてきます。
食事は、食べられるものを召し上がってください。
何かあればいつでも鴉を飛ばしてくださいね」
それを聞いて
ふみのは安堵の笑みを浮かべた。
カナヲの往診は暫くの間続き、
数ヶ月後にはふみのの容態は安定し、
普段通りの生活を送れるようになっていた。
そして、少しずつ丸くなる腹の膨らみに
ふみのと杏寿郎は毎日声を掛けた。
杏寿郎がふみのの腹を撫でる度、
そのぬくもりに呼応するように
ぽこぽことちいさな胎動が見られた。