火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第29章 蒼海の天水に光るは
すると杏寿郎のちいさな口づけが
ふみのの額に降った。
「…このまま続きをしても構わないか?」
緋色の瞳に誘われて、
ふみのはどきりと心臓が鳴る。
「うん…っ、よろしく、お願いします…!」
何度身体を重ねても、
緊張がとれないふみのの仕草に
杏寿郎はくすりと笑った。
「な、何か、へん…?!」
杏寿郎が何に笑ったのか分からず、
ふみのはあたふたとその瞳を見つめる。
「ふみのは
どんな時でも愛いなと、思ってな。
さ、ふみの、集中」
杏寿郎の指先が、とん、と
ふみのの鼻先に触れた。
するとそのまま杏寿郎は
ふみのの口唇を熱く攫う。
その夜もまた、
二人だけの甘いひとときに包まれたのだった。
それから数ヶ月経ち、
初夏を迎え、
木々の葉が色濃くなり始めた頃だった。
「「いただきます!」」
居間で朝餉をとる
ふみのと杏寿郎の声が響いた。
「この鮭は冨岡からのものか?」
「うん!
冨岡さんがお土産に持ってきてくださった時の!
お返しは何がいいかしら…?」
「そうだな…、
駅前にできた洋菓子店の品などどうだろう!」
「うん!それがいいわ!
最近は甘いものもよく食べるって
冨岡さん話していたものね!」
「うむ!また文を出して、
冨岡の予定を訊くとしよう!」
「うん!
…あれ、今日のお味噌汁…」
ふみのは味噌汁を一口飲むと、
じっと器を眺めた。
「ん?どうした?」
「…今日のお味噌汁、
少し薄味かもしれない…。
お味噌が足りなかったのかも…」
そう言われて杏寿郎も一口、味噌汁を啜った。
「…そうだろうか…?
いつもと変わりなく美味いと思うが…」
「ほ、本当?ならいいのだけど…!」
そう言ってふみのはもう一口、
味噌汁を飲んだ。
…やっぱりいつもと違うかも…
箸が止まったままのふみのを
杏寿郎は心配そうに見つめた。
「ふみの、大丈夫か?
どこか具合でも悪いのか?」
「あ…、ううん…!大丈夫よ!
昨日、遅くまで本を読んでいたから
寝不足なのかもしれないわ。
いつもと味が変わって感じたから…」