火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第29章 蒼海の天水に光るは
「新しい住まいのことで話が進めば
また教えて欲しい。
荷造りなど出来る限り力になりたい」
「兄上、ふみのお姉様、
俺も手伝います!何でも仰ってください!」
「父上、千寿郎、
色々とお気遣い頂き、ありがとうございます。
その際はまたお伝えさせて頂きます」
すると千寿郎が何かを思いついたように
ぽん!と手を叩いた。
「そうだ!お二人の新しい門出を祝って、
今日のお夕飯はご馳走様をお作りましますね!
ちょうど昨日、さつまいもを
たくさん買ってきたんです!」
「! よもや!それは嬉しい!!
今から腹の音が鳴りそうだ!」
「ふみのお姉様は何か食べたいものはありますか?
何でもお作りしますよ!」
「千寿郎くん、ありがとう…!
そうねぇ…何にしようかしら…!」
腕捲りをして意気込む千寿郎の様子に
ふみのも笑顔になった。
そしてその晩、煉獄家の食卓には
千寿郎が作った色とりどりの料理が並んだ。
家族で一つの食卓を囲む幸せ。
美味しいと言い合える家族がいること。
幼い頃、何度も見てきた光景が
今も変わらずにあるということ。
言葉にできない感謝の気持ちと
千寿郎の料理達に
心も腹も満たされた一晩だった。
それから数日後。
ふみのは海保に文を出した。
海辺の屋敷を今後の住まいとしていきたいと
申し出たところ、快く承諾してくれた。
引き継ぎは、屋敷へ引越す当日に
鍵を受け渡しに来てくれるとのことだった。
ふみのと杏寿郎は
煉獄家を出る日を一月後として、
それまで荷造りや挨拶回りを行うことにした。
自室から日に日に荷物が纏められてゆき、
ふみのと杏寿郎は物悲しくもなったが、
新しい生活に期待も膨らんだ。
「…そうすると、纏める物は
自分達の物くらいになりそうだな」
「そうね、屋敷の中にあるものは、
ほとんど使えるものばかりって
海保様もおっしゃっていたし…!」
「うむ!もし足りない物があれば
二人で探しに行こう!」
「うん!」
海保からの返信には、
家財等はほぼ屋敷に備わっているとのことで、
二人は必要な衣類や本等を少しずつ纏めていった。