火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第29章 蒼海の天水に光るは
海より帰宅後、杏寿郎は槇寿郎と千寿郎に、
今日見に行った海の傍の屋敷にへと
今後の住まいをふみのと共に
構えていきたいと告げた。
勿論、ふみのに求婚を申し出たことも。
槇寿郎と千寿郎は、二人の新しい門出を喜び、
千寿郎からは、この生家は自分が責任を持って
守っていきたいと話してくれた。
「二人が幸せになれるのであれば、
私からは何も言うことはない。
どうか、この先も二人らしく、
幸せを築いていって欲しい」
「兄上、ご安心ください!
この家は俺が守ります!
…兄上とふみのお姉様と離れて暮らすのは
少し寂しくもありますが、
またこちらにも遊びにいらしてくださいね!」
にっこり笑う千寿郎の目には、
薄らと涙が浮かんでいた。
「父上、俺の我儘を快く承諾して下さり、
本当に…ありがとうございます。
千寿郎にも…何と感謝を伝えればいいのか…」
「槇寿郎様、千寿郎くん。
もちろん杏寿郎も…。
煉獄家から頂いたご恩を
お返ししていけるよう努めます。
お許しいただき、
本当に…ありがとうございます…っ」
杏寿郎とふみのは畳に手をつき、
深々と頭を下げた。
「杏寿郎、ふみのさん、
頭を上げなさい。
これまでの人生、
鬼殺隊としての責務を立派に務め上げた。
…共に戦った同士達の分まで生き、
幸せになることが、次の使命だ。
そして千寿郎。お前は如何なる時でも
この家を懸命に守り抜いてくれた。
千寿郎もこの家に囚われる必要はない。
自分が思う場所へ行き、
思うように生きていけば良い。
次は三人が、それぞれの道を
生きていく番だ」
槇寿郎は三人に目を向け、
目を細めて笑った。
杏寿郎は改めて槇寿郎へと頭を下げると
顔を上げ、自分と同じ緋色の瞳を見つめた。
「…父上、ありがとうございます。
俺達が今をこうして生きてこれたのは、
父上達が数多くの試練を乗り換え、
未来を切り拓いて下さったからです。
これから先も煉獄家の名に恥じぬ様、
変わらず精進して参ります。
この今ある時間(とき)に感謝し、
俺は…ふみのと幸せになります。
ふみのを必ず、幸せにします」