火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第28章 御空の果てまで
二人は駆け足でその木の元に向かい、
ふみのは屋敷を見つめた。
幼少期の記憶が少しずつ蘇る。
小さい頃は随分大きく見えた屋敷だったが、
自分が成長しているせいもあるのか、
以前よりも小さくなったように見えた。
「…うむ、
葉の特徴から金合歓のように見受けられるが…、
…ふみの、
この屋敷で間違いはなさそうか…?」
「…うん、きっとここだわ。
金合歓の木が門の左側にあって…、
玄関までの白い石畳もそのままだわ…っ」
「でも人気は感じられないな…。
表札も出ていない…」
杏寿郎とふみのは
門から顔を覗かせた。
暫く耳を澄ますも
屋敷からは物音一つせず、
窓も全て閉ざされていた。
「この辺りは屋敷を住居にしないで、
休暇の時だけに訪れる人もいたから…。
今はお留守なだけなのかな…」
「ふむ…、しかも庭の手入れも行き届いているな…。
定期的に誰かが管理をしてくれているのだろうか…」
ふみのは少し気落ちしてしまった。
確かに長期間の利用がなければ、
誰かの手に渡っていてもおかしくはない。
しかし以前とほぼ変わらず、
古びた様子もなく屋敷が
そのまま残っていたことに
ふみのは安堵していた。
「…でも、今は誰かが
大切にしてくれているのなら…!
…少し寂しいけれど、
屋敷が見れて良かったわ!」
「うむ…」
上手く励ますことができない杏寿郎は
ただふみのを見つめることしかできなかった。
その時だった。
「…何か、こちらの屋敷に御用ですか?」
「「 ! 」」
ふとその声の方に振り向くと、
そこにいたのは白髪混じりの年配の男性だった。
「す、すみません!
とても立派な金合歓に
見惚れてしまって…っ!」
ふみのは謝り、
二人はその男性に頭を下げた。
「いえいえ、構いませんよ。
私はこの一帯の集落を管理しております、
海保(かいほ)と申します。
こちらのお屋敷は私も大変気に入ってまして」
「大層立派な金合歓ですね!
こちらはずっと前から植えられているのですか?」
杏寿郎が海保に訊くと、
嬉しそうに答えてくれた。