火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第4章 決意と別れ
夏が終わり、秋に差し掛かる頃、
瑠火はこの世を去った。
槇寿郎は声を上げて泣いていた。
千寿郎は今にも泣き出しそうな顔で、
ふみのの手を握って離さなかった。
杏寿郎は涙を見せず、
ただじっと冷たくなった瑠夏を見ていた。
(母上。俺は母上の言葉を決して忘れません。
必ず、必ず約束を、守ります。使命を果たします)
杏寿郎は膝の上に置いた拳をぎゅっと強く握る。
(杏寿郎……)
そんな杏寿郎の姿に、
ふみのは何と声をかければいいのか分からず、
静かに杏寿郎の横に座った。
硬く握りしめた杏寿郎の拳に
そっとふみのは自分の手を重ね、杏寿郎を見つめた。
(杏寿郎、一人じゃない、私が傍にいるからね)
ふみのの気持ちが通じたかのように杏寿郎は拳を解き、
ふみのの手に自分の手を乗せた。
「ありがとう、ふみの。
ふみのが側にいてくれるだけで、俺は心強い」
杏寿郎は今にも泣き出しそうな気持ちを堪えて、
ふみのに微笑んだ。
「杏寿郎、ずっと、傍にいるからね」
ふみのの心配してくれる瞳は
杏寿郎の心をゆっくりとあたためた。
きっとふみのは
誰よりもこの気持ちを知っている。
そんな自分を思ってくれているふみのの気遣いに
杏寿郎は救われていた。
(杏寿郎は、私が必ず、守っていく。
煉獄家も、私は大切な人を守り抜く)
ふみのはかたく決意した。
葬儀が無事に終わり、瑠火の別れに
来た人達が皆が泣いていた。
大きな寺に移動し、
ふみのは大きな白い百合を、墓跡に供えた。
煉獄家の墓跡の前で皆が順番に手を合わせていた。
(母上様、今まで、本当にありがとうございました。
この命をかけて、これからも一生懸命、生きてまいります。
これからも、どうか煉獄家をお守りください)
ぎゅっと目を閉じて、ふみのは何度も繰り返し唱えた。
槇寿郎は手を合わせたあと、
ただ静かに墓跡を眺めていた。
「俺は任務の報告がある、先に家に戻っていろ」
槇寿郎は、吐き捨てるように、その場を去ってしまった。
あんな槇寿郎を見たことはなかった。
もうその目からは希望が遠のいているかのようにも見えた。