火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第4章 決意と別れ
「…そして、杏寿郎。
ふみのさんを、どうか、頼みます。
彼女は人一倍、相手を気遣い、心優しい女性です。
どうかふみのさんの笑顔を、
これからも守って欲しいのです」
その言葉は、杏寿郎の胸に熱い炎を灯した。
「…母上、必ず、必ず、俺がふみのを守ります。
この煉獄家も。自分の責務を全ういたします」
その言葉を聞いて、
瑠火は杏寿郎を、自分の腕の中に引き寄せた。
「私はもう、長くは生きられません。
強く優しい子の母になれて、幸せでした。
…あとは頼みます」
瑠火は静かに泣いていた。
母に抱きしめてもらったのは、いつぶりだろう
弟の千寿郎が生まれてから、
兄としての立場が多くなり、めっきり減っていたように思う。
母は、こんなにもあたたかくて、
優しい香りがして。
もうこの先、同じ温度には、巡り会うことはない。
…もう母と会えなくなってしまう
杏寿郎は、
自分の目から涙が溢れていることに気付いた。
それを分かっているかのように、
瑠火は杏寿郎の頭を撫でる。
「杏寿郎。私の大切な、愛しい杏寿郎。
どうか、これからも逞しく、
優しく、強く、生きてください」
杏寿郎は涙が止まらず、
瑠火の言葉にただ耳を傾けることしかできなかった。
風鈴の音色がそっと、
夏の風を運んできた。
杏寿郎は瑠火の着物を
ずっと、ずっと握りしめていた。