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火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】

第28章 御空の果てまで




 …たとえもし、
 以前と変わってしまっていても
 きっとそれは そうなるようにできていて

 新しい幸せの形が きっとそこにはあって

 思い出は消えることなく
 私の心に残っていくものね…っ


ふみのはそう思いながら、
みちの薄桃色の着物に袖を通す。

きゅっと締めた帯が、
心をしゃんと整えてくれるようだった。


着付けを終え、
ふみのは姿見を見てはっとした。
そこには不安げな表情の自分がいたのだ。


 …!

 せっかくの杏寿郎とのお出かけなのに…っ


ふみのはぺちっと
自分の頬を叩く。

すると、とんとんと襖が鳴った。

「は、はい!」

「ふみの?
 朝餉の用意ができたそうだ」

「あっ、うん!今行くね!」

「…入っても構わないか?」

「う、うん!」

着流しを着た杏寿郎は襖を開け、
ふみのを見るや否や、
心配そうに顔を覗き込んできた。

「…何か、あったか?」

「えっ、ううん!何でもないわ!
 帯を整えていただけ!」

「…何か、心配事があるのだろう?」

「…っ!」

杏寿郎にぴたりと当てられてしまい、
ふみのは何も言えなくなってしまった。

「…体調が思わしくなければ、
 今日は出かけるのは止めておこう。
 …すまない、俺が事を急いでしまったな」

「う、ううん!違うの!
 どこも不調はないし、早く海に行きたいわ!
 …で、でも…、…もしね、
 昔と随分変わってしまっていたら、
 どうしようって、…少し不安になってしまったの…」

杏寿郎はそれを聞くと、
ふみのをやさしく抱きしめてくれた。

「きょ、杏寿…っ」

「…そうだな。
 ずっと其処にあると思っていたものが、
 そうではなくなっているのは…、
 言葉に出来ない寂しさが込み上げてくる。
 しかもそれを受け入れるのは容易いことではない」

「…杏寿郎、ありがとう。
 でも、大丈夫。
 もし今までと変わってしまったり、
 …過ごしていた屋敷に誰かが住んでいたとしても、
 私達家族が過ごしていた思い出はなくならない」

杏寿郎はふみのの頭を
何度も撫でてくれた。

ふみのはそのあたたかい大きな掌に
目頭が熱くなる。
ふみのは杏寿郎の着流しの袖をきゅっと掴んだ。

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