火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第26章 火光
すると、その女性の背後から
一人の男性が姿を現し、二人に会釈をした。
白の武道着を身につけたその男性の容姿と風貌に
ふみのと杏寿郎は目を見開く。
「?! まさか…っ」
「…?!
貴方は…猗窩座なの…?!」
猗窩座、否、狛治は静かに微笑むと
再び頭を深々と下げた。
「…酷いことばかりして、
本当にすまなかった。
…貴方の…ふみのさんのお陰で
俺は人間だった時の記憶を
取り戻すことができました」
狛治は頭を下げたまま、話しを続けた。
「…俺はこの後、罰を受けます。
今までした過ちは
決して許されることではありません。
…ですが、また生きることを許される時が来たら
今度は、必ず己の使命を
果たしたいと思います」
狛治はゆっくり頭を上げると、
ふみのと杏寿郎をゆっくりと見つめた。
「…俺が守りたかったもの、
強くなりたいと思ったことを、
ふみのさんに思い出させて貰えて、
本当に…感謝しています」
すると杏寿郎が一歩前に出た。
「狛治殿…、貴方が強くなりたいと願った想いは
本物だったはずだ。
大切な人を護りたいと思う気持ちから生まれる強さこそ、
真の強さだと、俺は思う」
「杏寿郎…、ありがとう。
杏寿郎に出会えて良かった。
…でも次は、鬼としてではなく、
人として、共に高め合っていける存在に
なれたらと思う。
…もし、次に、出会う時がきたら
その時は、…俺と…、」
狛治は言葉に詰まり、
杏寿郎から目線を逸らした。
「ああ、勿論だ!
次に出会えた時は、沢山話しをしよう。
是非、手合わせも願いたい!」
にっこり笑う杏寿郎に
狛治の心にあたたかいぬくもりが広がった。
「…最後に、ふみのさん」
「は、はい…!」
「その呼吸はとても…、
何と言って良いか分からないのですが、
あれだけ陽の光を見るのを恐れていたのに、
…貴方のその刀から放たれたその光は、
…生まれたばかりの、優しい朝陽のようでした。
こうやってひとで在った時の記憶も、
…恋雪さんとのことも、思い出すことができました。
本当に…、本当にありがとうございます」
狛治は深く頭を下げると、
恋雪と呼ばれた女性と見つめ合い微笑んだ。