火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第25章 約束
そして最後に其処に残ったのは、
着物と二つに裂けた竹笛だけだった。
「無一郎くん!!無一郎くん…っ!!
お願い、目を開けて…!!」
無一郎が受けた傷はどれも深く、
その場では処置が施せない状態だった。
ふみのが呼びかける度、
無一郎の呼吸はすこしずつ浅くなっていく。
「…時透」
そこに行冥が現れ、自身が着ていた羽織を
無一郎にそっとかけると、その頭を撫でた。
「…若い身空で…本当に…」
ふみのは己の不甲斐なさに
言葉にできない悔しさが募る。
あの時、無一郎が呼吸でふみのを眠らせたのは
これ以上危険な目に
合わせたくないと思ったからだった。
「…ん……ふみの…さ…」
「!! 無一郎くん!!」
薄らと開けた無一郎の瞳だったが、
静かにその燈が消えていくようだった。
「ここを出たら、
すぐに蝶屋敷に連れてってあげるからね!!
それまで…っ」
「…ふみの …さん…、─ ───…」
「…無一郎くん…? 何て言ったの…!?」
無一郎は最期の力を振り絞り、
掠れる声で続けた。
「…僕 との やく そく…
忘れない でね…」
「…!!」
無一郎は、小さく微笑むと
眠るように目を閉じた。
「…無一郎くん…?
だめ!!起きて…っ!!死んじゃ嫌!!」
ふみのの瞳から落ちる大粒の涙が、
無一郎の頬を濡らした。
どんなに名前を叫ぼうとも
無一郎が目覚めることはなかった。
…私はまた
何もできなかった…
ふみのは俯き、
己の無力さに打ちのめされた。
「うわああああああ!!
どうなってる!!畜生ッ!!
体が…っ!なんで鬼みたいに体が崩れる!!
クソッ!!クソッ…!!」
実弥の声が響いた。
体を真っ二つに切り裂かれてしまった玄弥は
今までのように体が再生せず、
すこしずつその身が崩れていった。
…玄弥くん…っ
私のせいだ…っ
ふみのが放った呼吸は
玄弥のところまでは届かず
黒死牟の攻撃を
回避することはできなかった。
「…一ノ宮」
行冥がそっとふみのに呼びかけた。
「…悲鳴嶼さん…ごめん…なさい…っ。
私が…もっと早く加勢していれば…
こんなことには…っ」