火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第24章 照らされた道
「そ、そんなこと!!
無一郎くんは何も悪くないです!
私が勝手に色々と思ってしまっていただけで…!
無一郎くんは何もお気になさらないでください!」
必死に弁解するふみのだったが、
無一郎は庭先の遠くの方を穏やかに見つめていた。
「…でも、そんなことってあるんだね。
僕も驚いた。
…あ、そうだ、海の絵。見てもいい?」
「あ、はい!もちろんです…!
ご案内しますね!」
初めて出会った頃の無一郎は素気なく、
感情を一切読み取ることができなかったが、
蝶屋敷に見舞いに行った時から別人のように変わり、
話し方や表情など、以前にも増して柔らかくなっていた。
ふみののあとをついてくる無一郎の姿が
またもや健一郎と重なってしまう。
ふみのも無一郎も優しい時間に
終始心が癒されていた。
「無一郎くん、これです。
どうしても海に行きたいと駄々をこねた私に
父が贈ってくれた、海の絵です」
「…知らなかった、海ってこんなに青いんだね。
…目の前で見たら、
きっともっと綺麗なんだろうね」
「はい!お天気の良い日の海は
本当に綺麗なんですよ!
海も毎日色々な表情があって…。
鴎の声も聴こえてくると
どこかの遠い異国に来たような気分になります…!」
しばらくじっと海の絵を眺める無一郎。
「…ねえ、ふみのさん」
「ん?なんですか?」
その絵を見たまま、無一郎が話しを続けた。
「…この戦いが終わったら、」
「…?」
「…僕もこの海を見てみたいな」
「…!」
「もちろん、煉獄さんも一緒に。
天気の良い日の、きらきら輝く海を
僕も見てみたい」
「もちろんですっ!必ずお連れします!
みんなで一緒に行きましょう!」
「うん」
嬉しそうに微笑む無一郎に、
ふみのは笑顔で小指を差し出した。
「無一郎くん、約束、です」
「…!」
すこし驚いた無一郎はそっと微笑むと
小指がふみのの小指と絡んだ。
「うん、約束」
無一郎と交わしたふろふき大根の次の約束。
ふみのと無一郎はにっこり笑い合うと
二人の間にふわりとさわやかな風が擦り抜けていった。
その後、無一郎は
ふろふき大根の礼をふみのに伝えると、
霞柱邸へと戻っていった。