火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第4章 決意と別れ
「槇寿郎さん、遠方の任務でお疲れではありませんか?
私に気にせず、ゆっくりお休みになってください」
「何を言う!この休暇は瑠火のために過ごすと決めている!
いつも家におらず、何もできてない自分が不甲斐ない。
…瑠火の傍に、いたいんだ」
「そんな、気にされないでください。
槇寿郎さんが無事に戻られるだけで嬉しいのですから。
でも…ありがとうございます。
私も槇寿郎さんと一緒に過ごせて、嬉しく思います」
そう言うと、瑠火は少し照れて笑った。
(…一緒に、過ごせる、とは、
あとどのくらいなのだろうか)
気にしてはいけないことは分かっているが、
そればかり考えてしまう。
今を大切にしなくてはいけないのも十分に分かっている。
だが、未来に起こることが、俺は怖くて耐えられない。
「槇寿郎さん」
はっと瑠火の声に我に返った。
「!…どうした?」
「私がこの家に嫁いだ日のこと、
覚えていらっしゃいますか?」
「ああ、もちろん。二人で緊張していたな。
恥ずかしくてうまく話もできなかった」
「本当に。あの時の槇寿郎さんのお顔を思い出すと
笑ってしまいます」
「瑠火、それは俺もだ。
…でもあの時思った。こんなにも心の美しい女性が
自分の妻になったのだと。倖せだった。
それは今も…この先も変わることはない」
涙が込み上げてきた。
駄目だ、泣いてはいけない。
瑠火の前では泣かないと決めたのだ。
「槇寿郎さん、それは私も同じです。
煉獄家に妻として嫁ぐことができ、
この家で槇寿郎さんと杏寿郎、千寿郎、
そしてふみのさんと過ごした日々が
何にも変えられない倖せです。
…どうかそんなお顔をなさらないでください。
貴方様の笑顔が何よりも私の元気になる源です」
「瑠火…」
槇寿郎は、瑠火を抱き寄せた。
強く、強く。
絶対に、離すまいと。
それに応えるかのように、瑠火は槇寿郎の背中に手を回す。
「…瑠火、頼む、いなくならないでくれ。
ずっと、ずっと傍にいてくれ。
ずっと俺のそばに…っ」
槇寿郎は涙で、体が震えていた。
どう足掻いたとしても、
その時は、いつかやってきてしまう。
瑠火がいない人生など、
どう生きていけばいい。
瑠火は、俺にとっての、希望なのに。