火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第4章 決意と別れ
もう、誰も悲しんで欲しくない。
これ以上、大切な人を失いたくないのに。
どうして神様は、こんなに悲しい出来事を
私達に置いていくのだろうか。
こんなに空は青いのに、風は穏やかで、
日の光はこんなにもきらきらと輝いているのに。
なぜこんなことが起きなければならないのか。
試練なのだとしたら、何の為に。
槇寿郎は、瑠火の部屋へと向かっていた。
瑠火の命があと僅かだと聞かされた日、
槇寿郎は目の前が真っ暗になった。
目の前にいる医師からのその言葉の意味を
瑠火は、ゆっくり落とし込むように、
じっと、前を見つめていた。
かけがえのない最愛の妻がいなくなる。
受け止められない現実に、
何度も何度も、声を殺して一人で泣いた。
しかし槇寿郎は、皆を不安にさせまいと
なるべく自然に振る舞い、笑顔を絶やさないでいた。
どうして瑠火が。
あんなに元気で過ごしていたのに。
こんなにも自分を想い、好いてくれて、
そばにいてくれる瑠火が、
何故この世を去らなければならないか。
あの笑顔を、声を、瞳を、
もう見れなくなるなんて。
触れることさえ、できなくなるなんて。
もし何か、瑠火にあったらと、
任務先で鬼に刃を振るう間も、
そのことだけが、頭から離れなかった。
この休暇はずっと瑠火のそばにいる。
そう決めていた。
「瑠火、入るぞ」
とんとんと襖を叩くと、
どうぞと返事が聞こえた。
槇寿郎が部屋に入ると
瑠火は布団から体を起こして庭を見ていた。
「起きていて大丈夫か?」
「今日はなんだか、気分がいいんです。
お医者様のお薬が効いてきているのかもしれません」
微笑む瑠火の顔はいつもより顔色が良かった。
その表情に、槇寿郎も綻ぶ。
(ああ、俺はこの笑顔に、弱いな…)
庭から子ども達の楽しそうな声が聞こえる。
洗濯物を干す姿が縁側から見えた。
「三人とも、本当に仲がいいですね」
「ああ、本当に。まるで兄弟のようだ」
「ええ。
…でも杏寿郎は、ふみのさんのこと…」
「ん?なんだ?どうした?」
「…いいえ!ひとりごとです」
くすくすと笑う瑠火を見ていると、
病気なのは嘘なのではないかと思えてくる。