火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第23章 思いは光の架け橋へ〈後編〉
ふみのの心を
如何しようも無い虚しさが襲う。
杏寿郎は、静かに涙を流すふみのを
ただ抱きしめ続けた。
運命とは不思議で、
なんと残酷なものだろうと杏寿郎は思う。
誰もが予想しないことが日々起こり、
それは人を喜ばせたり、幸福にさせたり、
又は一瞬にしてその人生を哀しみに陥れ、
狂わせてしまうこともあるのだ。
運命とは偶然なのか、必然なのか。
生まれた時から決められた道を
ただ歩んでいくだけなのか。
それでも人は、生命(いのち)が続く限り、
その使命を全うしなければならない。
杏寿郎は思う。
人は、靡く風に吹かれる一本の木のようだと。
その場所に佇みながら、
訪れる運命と与えられた“今”を
生きていかなければならないのだ。
決して癒えることのない苦しみを抱えるふみのに
杏寿郎はどう声を掛けていいか分からなくなってしまった。
「…ふみの。
ずっと一人で抱え込んで、辛かっただろう…。
何も気付けず…すまなかった」
杏寿郎は眉間に皺を深く寄せ、
ふみのを抱く両腕に力を込めた。
「ううん、杏寿郎が傍にいてくれて
本当に嬉しくて、しあわせで…。
…でもね、時々湧き上がるこの気持ちを、
どうしていいか分からなくて。
…まだ心のどこかでは、
起きた過去を受け止めきれてないのかな…」
杏寿郎は優しくふみのの頭を撫でる。
ふみのもそれに縋るように
杏寿郎の背中に手を回した。
「…ふみの、少しずつでいい。
焦る必要などない。
ゆっくり…時間を掛けて歩んでいこう」
「うん…っ。
杏寿郎、いつもありがとう…っ」
頬に涙が伝いながら、
顔を上げて笑顔を見せるふみの。
杏寿郎の言葉に、
ふみのの冷え切った心が解きほぐれていく。
「やっぱり、杏寿郎はお日様ね。
いつも、どんな時も、
心がぽかぽかあたたまってくるの」
「俺もそうだ。
ふみのと一緒にいると…優しい気持ちになれる」
「ふふっ、何だか照れちゃうなっ…!」
照れ笑うふみのを、
杏寿郎は愛おしそうに見つめた。
そして桃色に染まるふみのの唇に
杏寿郎の口づけがそっと落とされた。
「…ふみの、
もう少しだけ、一緒にいても…?」
「…!」