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火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】

第23章 思いは光の架け橋へ〈後編〉




ふみのは杏寿郎の肩に頭を預け、
庭先を見つめた。

会話がなくとも、心休まるこの時間は、
二人にとって何にも変えられない幸せだった。

杏寿郎もふみのの背中に腕を回し、
さらにぎゅっと自分の方へと引き寄せた。


「…無一郎くん…、」

「時透が…どうかしたのか?」


ふみのがぽつりと、落とすように話し始めた。


「…無一郎くん…、
 私の弟に、とても容姿が似ていて…。

 今日病室で、杏寿郎が
 無一郎くんの頭を撫でているのを見ていたら…、
 …もし弟が、…健一郎が生きていたら…って、
 家族が…今も生きていたら…
 どんなに幸せだろうって…っ。
 …急に、寂しく、なってしまって…」


ふみのの声が震え、その目からは涙が溢れる。
杏寿郎はふみのの涙を指で拭い、
ただ静かに話しを聞いていた。


「…でも、でも、もし
 私の一族が鬼に襲われていなかったら…、
 …杏寿郎と…
 会うことはなかったのかなって…」

「…!」


杏寿郎は目を丸くするも、
覗き込むようにふみのの瞳を見つめた。


「ふみの。
 もし、ふみのの一族が
 鬼に襲われることはなかったとしても、
 俺とふみのは
 何処かで巡り会う運命だったと、俺は思う。

 出会いはどんな形であっても
 俺はふみのに…恋をする」


緋色の瞳は、ただふみのを見つめていた。
そのやさしい眼差しに、
ふみのの哀しみが和らいでいく。
あたたかい涙が、ふみのの頬を伝った。

「…杏寿郎。ありがとう。
 …ごめんなさい、突然こんなことを言って…」

まだ目元を潤ませるふみのを
案ずるなと、杏寿郎はやさしく抱きしめた。

「…鬼がいない世界だったとしたら、
 家族も一族も生きていて、…幸せなことなのに。
 でも、私と杏寿郎は…出会うことはなくて
 お互いに別々の道を…
 歩んでいたのかなって…思ってしまったの…」

鬼という存在なければ
誰もが幸せになれていたに違いない。

しかし、その悪しき存在は醜くも残虐でありながら、
これまで数えきれないほどの
掛け替えのない出会いをも齎してくれた。

人生に起こる全ての出来事に、
意味があるのだとしたら。

失う意味とは、一体何なのか。

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