火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第23章 思いは光の架け橋へ〈後編〉
皆の見舞いを済ませると
ふみのと杏寿郎は蝶屋敷を後にした。
その帰り道のこと。
急に黙り込んでしまったふみのに、
杏寿郎が声を掛けた。
「…ふみの?
元気がないように見えるが…、
何かあったか?」
「えっ、そ、そうかなっ?
お夕飯は…何がいいかなって考えてて…!
杏寿郎、何か食べたいもの…ある?」
ふみのは杏寿郎に顔を覗き込まれ、
慌てて夕餉の話題へと変えた。
杏寿郎はその様子に疑問符が浮かぶも、
ふみのの問いに答えた。
「うむ…そうだな…。
そういえば先日、千寿郎が言っていた
“らいすかれー”という料理が
どんなものか気になっていた!」
「! そう!私も千寿郎くんと
料理本を見て気になっていたの!
じゃあ今日のお夕飯はそれにするね!」
「うむ!ありがとう!
楽しみだ!」
ふみのは杏寿郎を見てにっこり笑うも、
視線を落とすとその笑顔はすぐに曇ってしまった。
…時透と何かあったのか…?
杏寿郎はそれ以上詮索はせず、
ふみのの手を握ると、家路に向かった。
夕餉の際も、ふみのは笑顔は見せつつも
何処か心ここに在らずだった。
杏寿郎は湯浴みを済ませた後、
ふみのの様子を見に、部屋に向かった。
「ふみの、少しいいか?」
「…杏寿郎? うん、大丈夫よ」
ふみのの返事を聞いて、
杏寿郎は静かに襖を開いた。
行燈が室内をほんのりと照らす中、
ふみのは夜空から降る月光の下、
縁側を眺めていた。
「お湯加減は、ちょうど良かった?」
「ああ、つい長湯をしてしまった」
それならよかったわ!と微笑むふみのは
やはり何処か淋しげな目をしていた。
杏寿郎は着ていた羽織を
ふみのの肩に掛けると
その隣に腰を下ろした。
「! 杏寿郎が湯冷めしちゃうわ…っ!」
「俺は平気だ。…ふみのの手先が冷たい。
もっとこっちへおいで」
夜風に当たりひんやりとしたふみの手を
杏寿郎はぎゅっと握る。
ふみのは照れながらも、
杏寿郎の隣に寄り添った。
秋の虫の音が、縁側に響いていた。
「…杏寿郎はいつもあたたかいわ。
…それと…、」
「…?」
「…とっても、安心する」