火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第22章 思いは光の架け橋へ〈前編〉
杏寿郎は糸が切れたように、
ふみのの口元を貪った。
ふみのも杏寿郎へと向きを変え、
それに応えるように
杏寿郎の首へと両腕を絡める。
杏寿郎はそのままゆっくりと
ふみのを押し倒した。
熱の籠る唇はそのまま
ふみのの首筋へと伝った。
「…杏…寿郎…?」
「…ん?」
名前を呼ばれて、杏寿郎が顔を上げると、
頬を赤らめたふみのが泣きそうに微笑む。
「私、杏寿郎が…大好き」
畳に広がるふみのの髪から
ふわりと香る香油が杏寿郎の昂りを煽いだ。
「ああ、俺もふみのが…大好きだ」
再び、杏寿郎の甘い口づけが落とされた。
そこに激しさはなく、
ただ、紡がれたぬくもりの快美に二人は揺蕩う。
身体が、魂が、
今、この瞬間(とき)を
共に生きていることに歓び、詠う。
今まで数え切れないほど
伝え合った愛の言葉を
二人は何度も、何度も聲にした。
その想いは、伝えても、伝えても、
止むことを知らない。
寧ろ、その想いは強くなっていく。
こんなにも幸せなことなのに、
ふみのの頬には涙が伝っていた。
静かに涙を流すふみのを
杏寿郎は何も言わず、やさしく拭ってくれた。
「…俺はずっと、ふみのの傍にいる」
杏寿郎は緋色の瞳を細め、
心から幸せそうに、杏寿郎は笑った。
「杏寿郎、…だいすき。
私…とってもしあわせ…っ」
杏寿郎のあたたかな抱擁の中で
ふみのはその幸福に浸った。
どうか、このまま、
時が止まって欲しいと、二人はそう願いながら、
重たくなる瞼をゆっくりと閉じた。
二人が眠りから覚めた時は、
既に昼近くになっていた。
目が覚めても、
二人は布団で抱き合い寝転んだまま、
庭先から聴こえる鳥の声に耳を澄ませていた。
障子に映る眩しい陽の光に
ふみのは目を細める。
「…こんなにものどかなのに。
鬼がいるなんて、嘘みたいね」
「ああ、本当に。
何処か、出かけるか?」
「…ううん、
今日はお家で杏寿郎と一緒にいたい」
杏寿郎の胸元に、
ふみのは顔を擦り寄せる。
杏寿郎から聞こえる
とくとくと鳴る心音が心地よい。
ああ、分かったと、
杏寿郎はふみのの頭を撫でてくれた。