火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第22章 思いは光の架け橋へ〈前編〉
ふみのはそう言うと、
鬼の頸へと近寄り、腰を下ろした。
斬った頸の切り口から
じわじわと灰と化していく。
杏寿郎もふみのの後ろに立ち、
それを見届けた。
「…アンタ達、本っ当腹立つわ…っ!!
何でも手に入れられて
さぞかし幸せでしょうねぇっ!?
惨めなアタシを見下ろして
気分いいでしょ!?
…その男に想われて…っ。
…何で、どうして、
アタシばっかり…、
こんなことに、なんなきゃいけないの…?!」
鬼は泣くことを思い出したかのように
わんわんと声を上げて泣き叫んだ。
「…紅(あか)い色が、好きなの?」
ふみのは鬼が着ていた着物を見つめた。
鬼の涙が徐々に引いてくると、
その想いを少しずつ吐露し始めた。
「…あの人に、言われたの。
“お前は、紅が一等似合う”って。
…嬉しかった。
やっと誰かに愛してもらえるって
思ったのに。…思っていたのに。
…あの人はアタシを裏切って
他の女の所に行った。
そしてアタシを…殺そうとした…っ!!
…でも、気付いたら、
自分が…殺してた。
怖くなって逃げ出して。
死のうと思って自分で首を切ったけど、
上手く死ねなくて。
…次に目が覚めた時には
もう、鬼(これ)になってた」
鬼は瞳を滲ませて二人を見上げた。
「…アンタ達は、いいねぇ。
羨ましいよ。
言わなくても伝わる。
いい関係なんだなぁってさ。
…地獄で閻魔様に
たくさんお叱りを受けて、
…もし、次、
生まれ変わることができたら、
今度は…誰かにちゃんと
愛されてみたいなぁ…っ」
鬼は、穏やかに笑った。
その瞳から流れる涙を
ふみのは綺麗だと思った。
「…きっと、そうなるわ」
ふみのは鬼に優しく微笑むと、
その紅い着物をそっと掛けてあげた。
「…アンタも肌が白いから、
紅が映えそうね。アタシといい勝…」
そう言いかけている途中で
鬼は全て灰になって消え、
天へと舞うように、夜空の風に流れていった。
ふみのと杏寿郎は
その最期に胸を痛めた。
「…酷く哀しい思いを
してきたのだな」
「…そうね。
次は…想いが実って欲しいな」
東の空が明るい。
もうすぐ夜明けが近付いていた。