火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第22章 思いは光の架け橋へ〈前編〉
「嬉しい、嬉しいわ鬼狩りさん…!
アタシの望みを叶えてくれて…!!」
鬼は顔を上げ、目を閉じると
頸を斬られる瞬間を、
ただ静かに待ち望んでいた。
杏寿郎は先程とは別人のような態度をとる鬼に
不信感を覚えるも、息を吸い、柄を握り締めた。
「…──炎の呼吸 捌ノ型
手火の燈(たひのともしび)───…」
杏寿郎が型を唱えると、
日輪刀が茜色に色付く。
かろやかな炎が刃に絡まり、
杏寿郎は鬼の頸元へと振り下ろした。
「…ほんっと、男って馬鹿ねぇ」
鬼の目がカッと見開き、
にたりとほくそ笑んだ。
(!? しまった…っ!!)
杏寿郎は異変を感じ、
咄嗟に後ろへと下がろうとするも、
もう時既に遅かった。
地面が轟音と共にひび割れ、
その隙間から鬼と同形の腕が何本も伸びると、
勢いよく杏寿郎の体を捕らえ、羽交い締めにしたのだ。
その数本の腕は
杏寿郎を地面に叩き付けると、
鬼はけたけたと笑っていた。
「ふははっ!愚かねぇ!
まんまと騙されて…!」
「杏寿郎…っ!!!」
ふみのは刀を握り直し、
鬼へと刃を向ける。
「光の呼吸 弐ノ型 燐…っ、つ…っ」
ふみのは刀を振るうも、
右腕の痛みで顔が引き攣った。
「ふみの!!
俺に構うな!!逃げろ!!」
杏寿郎は必死に踠くも、
鬼の腕がぎしぎしとその体を締め上げていく。
「はーあ、おかしいったらありゃしないわ。
…アンタ、全く刀を振れないのね。
何をしに此処にきたの?
それにしても…、
男って、女の泣き顔には弱いものよねぇ?
アンタもこの男に泣き喚いて
陥れたんでしょう?」
ふみのは鬼の発言に苛立った。
このままでは鬼の言う通り、
自分は足手纏いでしかない。
杏寿郎を救わなければ。
その一心だった。
ドクン───────…!
(…!! 刀が…っ!!)
突然、ふみのの日輪刀が唸った。
そして脳裏を、あの言葉が過ぎる。
『希を 切り拓け』
(そうだ、憎しみからは何も生まれない…!
杏寿郎も、…この鬼も、助けなくちゃ…!!)
ふみのは大きく息を吐くと、
鬼を見つめた。