火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第22章 思いは光の架け橋へ〈前編〉
杏寿郎はもしふみのが起きていたら、
一声掛けてから家を出ようと思い、
そっと襖を叩いた。
「…ふみの」
すると、はいと返事が聞こえ、
ふみのが襖を開けた。
杏寿郎の隊服姿に、ふみのは目を見開いた。
「…! 任務が、入ったの?」
「ああ。負傷者も出ており、
まだ鬼が猛威を奮っているとのことだ。
急だが、行ってくる」
杏寿郎はふみのの頬に手を添え、
「遅くにすまなかった」と小さく微笑んだ。
「…杏寿郎、私も一緒に行かせて欲しい」
「!?」
杏寿郎はふみのの言葉に驚き、
目を丸くするも、平然を装った。
「…ふみの。君の腕は
まだ完全に回復しきっていない。
気持ちは分かるが、今はまだ駄目だ」
「…分かってる。
でももう、このまま見ているだけは嫌なの。
微力でもいい。皆を、助けたい。
…もう、誰も、失いたくない」
ふみのの涙ぐむ声に、
杏寿郎はぐっと奥歯を噛む。
ふみのはただじっと
杏寿郎を見つめていた。
「…分かった。
ただ、俺が危険だと判断した場合は、
何があろうとも退却し、命を優先して欲しい」
「うん。
杏寿郎、ありがとう」
すぐに支度をするから、と
ふみのは部屋に戻り、隊服に着替えた。
「コノママ!真ッ直グデス!」
「うむ!案内ご苦労!また何かあれば連絡を頼む!」
「承知致シマシタ!」
ふみのと杏寿郎は要に案内され、
鬱蒼と生い茂る雑木林にやってきた。
空気が重い。
他の隊士の様子は全く見られなかった。
「気配が…全く感じないな」
杏寿郎が眉を顰めて辺りを見回した。
「うん、争った形跡も全くないわ」
「うむ。もう少し奥に進もう」
二人は、慎重に木々を掻き分け、
仄暗い暗闇へと進んだ。
刀を構え、ふみのは右手と柄を
包帯で括り付けて握った。
すると突如、
気配ががらりと一変した。
鬼の気配だった。
「!!! 杏寿郎!!後ろ!!」
「!?」
異様な威圧感を突然露わにし、
杏寿郎の背後に襲いかかってきたのは、
紅の着物を身に纏った女の鬼だった。
長い鋭利な爪を、
杏寿郎へと向けて突き刺そうとするも
間一髪のところで、身を翻した。