火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第22章 思いは光の架け橋へ〈前編〉
禰󠄀豆子は、湯呑みが乗った盆をそうっと持ち上げると、
慎重に杏寿郎のところに運んでくれた。
ふみのも部屋に入り、
座ってその様子を後ろから見守る。
禰󠄀豆子は、ん!と杏寿郎に
盆ごとを湯呑みを差し出た。
杏寿郎はありがとうと、柔かに湯呑みを受け取った。
禰󠄀豆子はふみのにくるりと振り返り、
嬉しそうに駆け寄ってくると、
ふみのにぎゅっと抱きついた。
「禰󠄀豆子ちゃん、ありがとうね」
「うーぅ!」
ふみのがよしよしと禰󠄀豆子の髪を撫でた。
そんな二人の微笑ましいやりとりに、
杏寿郎の目尻が下がった。
(まるで、親子のようだな…)
ふみのが禰󠄀豆子に向ける眼差しは
まるで母親のように、あたたかく優しかった。
杏寿郎はふと瑠火を思い出し、懐かしさに綻ぶ。
「杏寿郎、急にお邪魔しちゃってごめんね」
「いや、休む前にふみのと話しができて良かった。
…む? 竈門妹、どうかしたか?」
禰󠄀豆子は杏寿郎の書机に置かれていた指南書を
不思議そうにじっと眺めていた。
「これが気になるのか?」
杏寿郎が指南者を禰󠄀豆子に手渡すと、
眉間に皺を寄せ、む〜…と言いながら、
頁をぱらぱらと捲った。
一生懸命に目を凝らす禰󠄀豆子に
杏寿郎がくすりと笑った。
「竈門妹、こっちへ来てごらん」
杏寿郎は後座をかくと、手招きした。
禰󠄀豆子は杏寿郎の膝の上にちょこんと座り、
捲った頁に書かれていた文字を指差した。
「…この言葉か?
これは炎虎と読む!」
「…むー…?」
杏寿郎は更に本の文字を指で追って読み聞かせた。
その説明に禰󠄀豆子は首を傾げながらも、
真剣に耳を傾ける仕草が可愛らしかった。
「竈門妹は、本が好きか?」
「むーっ!」
「そうか!
ならば、気になる本があれば持っていくといい!
俺の部屋にはいつでも入って構わない!」
杏寿郎を見上げて嬉しそうに笑う禰󠄀豆子に
ふみのは心和んだ。
「禰󠄀豆子ちゃん、良かったわね!
でも、今日はもう遅いから
お布団にいきましょう?
また明日、ご本を読んであげるから」
うー!と禰󠄀豆子は喜びの声を上げると、
杏寿郎の膝をすとんと降りて、
再びふみのの膝元に擦り寄った。