火光 − かぎろい − 【鬼滅の刃 / 煉獄杏寿郎】
第21章 希(まれ)を込め、想う ˖☽°.*
「いつかまた、二人で来よう」
「うん…!」
満月の光が灯る部屋で、
二人はたわいも無い話しに花を咲かせる。
秋風がひゅうっと二人の肌を攫うと、
ふみのはちいさく肩をすくめた。
「これを」と杏寿郎は自身の羽織を
ふみのにかけてくれた。
ありがとう、とふみのが言うと、
杏寿郎が立ち上がり、その手を取った。
「明日は早い。もう休もうか」
「うん、そうね。
─────きゃっ…」
杏寿郎の手を支えに立ち上がると
ふみのの足がふわりと宙に浮いた。
杏寿郎はふみのを抱きかかえると、
二人の視線が交わった。
「ふみの。
あと少しだけ…話しをしても構わないか?」
この時間に
終わりなどあって欲しくない
杏寿郎の聲が伝わってくるようで、
ふみのの胸がぎゅっと締め付けられた。
「もちろん…!
お願い事、聞いてくれてありがとう。
私ももう少しだけ…杏寿郎とお話していたいな」
二人はコツンと額を合わせ微笑むと、
ふみのは杏寿郎の肩に手を掛けた。
虫の音が、秋の宵へと二人を導く。
この甘い夜を、満月だけが知る。
ふみのと杏寿郎は、
握り合ったその手を片時も離さなかった。
そして音柱・宇髄天元と炭治郎達が向かった吉原遊廓では、
上弦の陸である妓夫太郎、その妹の堕姫が猛威を奮っていた。
死闘の末、天元と炭治郎達は上弦の鬼を討伐し、
耀哉と鬼殺隊内より、その成果は大きく讃えられた。
しかし天元は片腕を失い、柱を退くことになり、
炭治郎はその戦いから二ヶ月後に目が覚めたのだった。
禰󠄀豆子の怪我は鬼の為、ほぼ完治していたが、
何処となく元気がなく、炭治郎が目覚めるまで、
煉獄家で引き取ることとなった。
禰󠄀豆子は起きている間は、
ふみののあとをついて歩き、
日中はふみのと杏寿郎の鍛錬の様子を
部屋の暗がりから顔を覗かせていた。
ふみのは少しずつ動くようになった右手と柄を包帯で括りつけ、
毎日欠かすことなく杏寿郎と共に鍛錬のため日輪刀を振るった。
絶対に 諦めない
私は 私の使命を
切り拓く
この思いに、希を込めて─────…